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沢尻エリカ被告に判決【神保哲生×宮台真司×松本俊彦】薬物事件をめぐる刑罰と報道の問題点

文=構成/橋川良寛・blueprint

規制の強化だけでは薬物被害が減らない理由

宮台 家族が助けてくれるという期待があったり、自分がこうなったのは家族のせいだという依存からくる恨みがあったり、そういう関係性から切り離さないとダメだというのは、映画やドラマの枠の中でさえ説得的です。

神保 こうして見ていくと、今のテレビは、本来は避けるべきことをことごとくやっている感じですね。

松本 テレビの仕事をされている方たちからすると、手っ取り早く視聴率が取れる方法だと思うんです。だから我々も、代替案として「このほうがもっといい視聴率が取れるし、評価される」というものを提案していきたいと思っています。

神保 最後に非常に大事な言葉で、「ハームリダクション」というものについて聞かせてください。

松本 ただ規制を強化するだけでは薬物の被害が減らないという反省から、ヨーロッパを中心に広がっている、薬物使用による二次的な被害を抑えるための取り組みです。例えば、取り締まりを強化するより、安心安全なヘロインの使い方を指導するためのナースが常駐している「注射室」を作る。この試みは非常に成果が上がったんです。HIVや薬物の過剰摂取で死亡する人が激減したし、懸念された地域住民の犯罪の増加もなかった。それどころか、注射室に通う中で気が変わって、断薬プログラムに行く人が結構いたんです。それから、ひとり親の女性薬物乱用者が子育ての悩みを相談できるようになり、子どもの虐待死が減少したという話を聞いたこともあります。つまり一番悪いのは、薬を使う・使わないではなく、孤立すること。ハームリダクションは、一人ぼっちにさせない政策であって、とにかく彼らとコンタクトを取って話をする。彼らが援助者を避けないようにするためにはリスペクトしてあげることが必要で、僕は人権尊重の倫理的なかかわりだと思っています。

神保 アメリカでもなかなか進まない中で、日本ではさらに難しいかもしれない。

松本 その中で、日本でまずできることは何かというと、治療や支援の場で、絶対に通報しないということです。安心して相談したり、治療を受けたりできる場所にしなければいけない。また、規制を厳しくするほど出回る薬物はどんどんやばくなっていきますし、危険ドラッグが流行したときは、規制を強化するたびに死亡する人もどんどん増えていったんです。ヘロインにしても覚醒剤にしても、長い歴史がありますから、安全性は確認されている。しかし危険ドラッグは何が入っているのかわからない。だから、買った危険ドラッグの中身を調べてくれるようなセンターもあったほうがいい。

神保 なるほど、持ち込んだら通報されるのでは、誰も持ち込みませんね。

松本 そうしないと命を守れません。例えばオーストラリアでは、子どもたちに対する薬物乱用防止教育のポスターには、例えばクラブで誰かが薬物による痙攣発作を起こしたとして、絶対に捕まえたりしないから救急車を呼んで、と書いてある。これが大事なのですが、日本だとそれができないから、押尾学さんのあのような事件が起きてしまったんです。日本の政府の方針としては、現時点ではハームリダクションは否定していますが、依存症支援者の中では、みんな一生懸命に勉強しているところです。

宮台 10年ほど前のピュー・リサーチの調査で、政府がひとりで暮らせない貧困者を助けることに反対するかと聞くと、ヨーロッパや中国ではだいたい8~9%が反対すると答えるのに対して、日本では驚くことに38%も反対する、という結果が出ました。いわゆる自己責任原則が蔓延しており、貧困でさえそういう話になっているのに、麻薬や大麻その他についてそういう態度になってしまうのは推して知るべしですね。

神保 本当は支えたほうが社会コストが安いのに。

宮台 そう。どうして多くの国が貧困ケアを大切にするかというと、それが社会にとっていいから。簡単に言うと、地域の共同性を保つにはそれしかないからです。だから、貧困は個人や世帯の問題ではなく、地域全体の問題だと考えられるが、日本人はまったくそう考えられる状態じゃない。

 ただ、先ほど松本さんがおっしゃったことで、薬物に関する規制は社会や個人に対する害悪というより、もっぱら政治的な経緯で決まっていることがわかるだけで面白いし、目から鱗ですよね。こういう番組が増えると、言葉の自動機械になっている人間たちから影響力を奪うことができます。それでは彼らがどうやって憂さを晴らせばいいのか、という問題が出てくることは確かですが、そういう悪い効果をとにかく提言することが急務だと思います。

松本 そうですね。僕も薬物が健康にいいとは思っていませんし、健康に悪い、害があるということで薬物を批判するのは当然の話だと思いますが、それと使う人とは切り分けて考えてほしいんです。いろんな不利益があってもやめられない、いわゆる依存症になっている人と、同じ薬物を使ってもやめられる人がいる。その中で、依存症になる人は、ほかに困った問題がある人がほとんどなんです。痛みを抱えた人がいるんだ、人生にイエスと言えない人がいるんだということは、忘れてはいけないと思います。(月刊サイゾー2月号より)

●まつもと・としひこ
1967年、神奈川生まれ。93年、佐賀医科大学医学部卒業。医学博士。横浜市立大学医学部附属病院などを経て、15年より現職。17年より同センター病院薬物依存症センターセンター長を兼務。著書に『薬物依存症』(ちくま新書)など。

●神保哲生[ビデオジャーナリスト]
1961年生まれ。ビデオジャーナリスト。ビデオニュース・ドットコム代表。代表作に『ツバルー地球温暖化に沈む国』(春秋社)。『地雷リポート』(築地書館)、『PC遠隔操作事件』(光文社)など。

●宮台真司[社会学者]
1959年生まれ。首都大学東京教授。社会学者。代表作に『日本の難点』(幻冬舎新書)、『14歳からの社会学』(世界文化社)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(幻冬舎)など。

●『マル激トーク・オン・ディマンド』とは
神保哲生と宮台真司が毎週ゲストを招いて、ひとつのテーマを徹底的に掘り下げるインターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」内のトーク番組。スポンサーに頼らない番組ゆえ、既存メディアでは扱いにくいテーマも積極的に取り上げ、各所からの評価は高い。(月額550円/税込)
HP:http://www.videonews.com

最終更新:2020/02/07 11:30
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