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ラップと映画の禁忌

すべての初期衝動を映像に落とし込む! ラッパーANARCHYが映画『WALKING MAN』で表現したかったこと

文=大前至

――ANARCHYがメガホンを執ったことで話題となった映画『WALKING MAN』。彼が映画で表現したかったこと、描写したかったこととはなんだったのか? ラッパーとして成功を収め、そして映画監督としての才を見せた男は、次作への構想も話してくれた。

写真/cherry chill will

 注目の若手俳優・野村周平が、どん底の生活からラッパーとしての成功を目指す主人公〈アトム〉役を演じる、映画『WALKING MAN』。昨年10月に劇場公開がスタートしたこの作品で監督を務めたのが、日本のヒップホップシーンのトップに立つラッパーのひとりであるANARCHYだ。これまでラッパーが役者として映画に関わってきたケースは多数あるが、現役のラッパーが自ら監督としてヒップホップをテーマにした映画を撮るというのは、実は世界的にも非常に稀だ。日本ではまだまだ発展途上といえる、この“ヒップホップ映画”というジャンルであるが、『WALKING MAN』で監督デビューを飾ったANARCHYの言葉から、そのリアルな現状と未来を探ってみた。

◇ ◇ ◇

――今までいろんなヒップホップ映画を観てきたと思いますが、物足りなかったり、「これは違うな」みたいに感じることはありましたか?

ANARCHY アメリカの映画でそんなふうに感じたことはなかったですね。やっぱり向こうで生まれたカルチャーだし、忠実にヒップホップを再現してないと文句言われると思うんで。ただ、日本の作品に関してはカルチャーをわかってない、理解していない人が作ることが多かったりする。ストーリーは面白くてもラップの部分はかっこよくなかったりとかね。「ヒップホップという文化を世の中に伝える」という面では機能するかもしれないけど、誰が観てもバイブルになるような作品は日本にはなかったと思う。そういう意味で『WALKING MAN』は、若い子がラップに興味を持つくらいのバイブルになる映画にはなったと思ってます。

――『WALKING MAN』を撮る上で、そういったリアリティの部分に関してはどう考えましたか?
ANARCHY 例えば、劇中でいきなり銃が出てきて「バーン!」ってなったら……やっぱりおかしいですよね。「日本のリアル」って部分を大事にしたかったんで、描写は大げさにしたくなかった。もっと派手にすることもできたけど、人ひとりの人生って、ホンマはほとんど地味なところが多かったりするじゃないですか。それでもアトムが初めてラップを聴いた瞬間や初めてラップを口に出した瞬間とか、すべての初期衝動の部分は伝わるようにちゃんと撮ろうって。

――小道具的にはエアジョーダンやニューエラなどがヒップホップ的なアイコンとして重要な役割を担っています。銃の話もそうですけど、どこまでがOKとか、そういったラインは決めましたか?

ANARCHY 実はそれがあんまりなくて。強いて挙げるならクラブのシーンくらいですかね。日本のドラマや映画に出てくるクラブのシーンって、クラブのようで全然クラブじゃない。なので、リアルなラッパーがステージでライブ中だったり、クラブのお客さんも俺の友達を集めたりして。けど、そのくらいですかね。「これをやったらヒップホップじゃない」というのは、特に意識しなかったです。

――それは監督を務めたということもあって、無意識で機能していたのかもしれませんね。リアリティという意味では、ラッパーの十影が演じた三角が住んでいた部屋のシーンでのディテールの作り込みはすごかった。

ANARCHY 絶対に今の人間の部屋じゃないですよね(笑)。どんなにヒップホップが好きでもああはならへんけど、昔はあんな感じだった気がするんですよ。もう、完全にヒップホップ・ヘッズの部屋みたいな。あの部屋にはそのくらいヒップホップが好きな感じを出したかったこだわりはありましたね。三角の曲のリリックは俺が書いたんですけど、ラップもダサくて、クソつまらない。でも、言いたいこと、伝えたいリアルは全部ラップしてるんですよ。

――タトゥーも実はシールだったり、ちょっとダサいアー写が飾ってあったりとかもリアリティあるなって。

ANARCHY 笑えますよね。十影がホンマに良い味を出してくれたんですけど、あの役はラッパーしか考えられなくて。もし俳優が演じていたら、ただ単にダサい奴がダサいラップをやるだけになる。十影が演じるからこそかっこよく映える。どうしようもないやつだけど、アトムがラップを始めるきっかけを作るキーマンですからね。

――その十影をはじめ、T-Pablowやサイプレス上野、WILYWNKA、Leon Fanourakisなど、映画には本物のラッパーが多数出演しています。

ANARCHY ラッパーに演技しろって言っても、やっぱり難しい部分があるかもしれんけどね。でもラップっていう演技は、ラッパーにしかできへん部分があるんですよ。(野村)周平は役者としては稀なくらいラップがよくできたと思っていて。フリースタイルバトルのシーンとかも、本物の俳優だけで撮ってたらホンマにグダグダになっただろうし。

――野村さん本人は、この作品の前からラップの経験はあったそうですね。

ANARCHY と言ってもカラオケやバーで歌ってた程度なので。それをいざステージ上でパフォーマンスするとなると難しいじゃないですか。それをあんなふうにこなしたのは、たいしたもんやなって。周平とは1日クラブを貸し切って1対1で練習をしたんですよ。そこで俺がアトムになりきってリリックを書いた「Promise」っていう曲を歌い、フロウを聴かせたり動きを見せて、感情を伝える術なんかを伝えました。

――あの曲には『WALKING MAN』という映画のストーリーそのものが込められてますね。

ANARCHY 俺の曲でいう「GROWTH」や「Fate」みたいに、自分で感じた逆境を武器にしたのが「Promise」だと思っていて。最後のライブのシーンで、アトムが言いたいことをちゃんと言えてへんかったら、映画は完結しない。物語を完結させる意味でも、「Promise」のラップは重要だったんで、そこはうまく表現できたと思いますね。

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