本多圭の「芸能界・今昔・裏・レポート」

自民党は言論機関に圧力をかけていた…あるTVプロデューサーの死去で思い出す“TBS成田事件”

TBS放送センター

 テレビプロデューサーの大原れいこさん(本名・犬飼麗子)が4月27日、膠芽腫のため死去した。84歳だった。大原さんの名前を聞いて、筆者は約50年前の“TBS成田事件”を思い出した。

 “TBS成田事件”とは、1968年、当時、新東京国際空港問題(成田闘争)を取材していた東京放送(現・TBS)のドキュメンタリー制作スタッフが、新空港建設反対集会の取材に向かう際、集会参加者10人を取材用のマイクロバスに便乗させていたことが発覚。政府・自民党からの非難を受けて、計8人が処分を受けた事件だ。その中の一人が、大原れいこさんだった。

 当時、自民党は言論機関に対して、たびたび圧力をかけていた。

 成田事件の前年の1967年には、『JNNニューススコープ』の初代キャスター・田英夫さんが、ベトナム戦争中の北ベトナムを取材した『ハノイーー田英夫の証言』の中で、当時のアメリカが事実を伝えていないと報じたことに対し、政府自民党は“TBSは左寄りの偏向報道だ”と批判。今道潤三TBS社長(当時)と報道局長を自民党本部に呼びつけ、抗議している。社長は不快感を示したというが、同年2月9日に放送された『現代の主役 日の丸』を制作した報道局プロデューサーの萩元晴彦氏と、『ハノイ』を担当した村木良彦氏が人事異動になった。『現代の主役 日の丸』も、自民党内で“偏向報道”と問題視されていたのだ。

 これに、TBS報道局の組合員が「懲罰人事だ」と、人事異動および処分の撤回を求めた。だが、そんななか、『JNNニュースコープ』の田さんが突然、キャスターを降板。報道局員組合員は「報道の自由は死んだ」との喪章を着け、労働闘争に突入した。これがTBS闘争だ。

 この闘争は、約100日あまりにわたって繰り広げられた。結果、一部の処分は撤回されたが、それ以外は成果を上げられないまま終結した。

 会社に失望した萩元と村木は、TBSを退社。制作会社「テレビマンユニオン」を設立した。放送局から独立した、日本初の番組制作会社だった。同社設立後、プロデューサーとして参加したのが大原さんだった。

 それから、1年後。筆者は、6カ月契約のアルバイトとしてTBSの報道局で働くようになった。報道制作部には、後に千葉県知事になった堂本曉子さんもいたが、その時に見た大原さんは眩しかった。

 6カ月後、契約が切れた筆者は、契約内容が不当だとして、TBS労組の援護のもと、同じアルバイト数名と争議団を結成し、臨時の労働運動を展開した。その傍らで、組合運動を手伝いながら、反戦デモにも積極的に参加した。結局、それが組合からも“過激派“だとみなされ、除名されてTBSを去った。その後、「週刊ポスト」(小学館)の専属記者を経て、フリーに転身。現在に至っている。

 大原さんの訃報に触れ、血気盛んだった昭和の時代を思い出した。大原さんの死に、改めて合掌。

本多圭(ジャーナリスト)

芸能取材歴40年以上、タブー知らずのベテランジャーナリスト。主な著書に『 スキャンダルにまみれた芸能界のトンデモない奴ら』など。

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最終更新:2020/05/09 17:45
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