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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.585

殺人を犯した未成年者たちの更生は可能なのか? 実在の少年犯罪が題材の『許された子どもたち』

内藤瑛亮監督の最新作『許された子どもたち』。少年法では裁くことのできない、子どもたちの心の闇に迫っている。

 緊急事態宣言明けの映画界を震撼させる問題作が公開される。内藤瑛亮監督の『許された子どもたち』だ。愛知県で起きた実在の事件を題材にした『先生を流産させる会』(11)で衝撃的なデビューを果たした内藤監督が、山形マット死事件、大津市中2いじめ自殺事件、川崎市中1男子生徒殺害事件、東松山都幾川河川敷少年殺害事件などの少年犯罪から着想を得て撮り上げている。外部の人間には分かりづらい、加害者側の少年やその家族の心情に生々しく迫った内容だ。

 主人公となるのは、絆星(きら)という「キラキラネーム」を持つ中学2年生の男子。絆星(上村侑)は小学生の頃はいじめられっ子だったが、中学に入ってからいじめる側となった。いじめの標的となっているのは、内向的な性格の樹(阿部匠晟)。絆星たちいじめっ子グループは樹に割り箸ボーガンを作らせ、河原で試し撃ちして遊んでいた。樹のちょっとした態度に絆星はイラつき、ボーガンを樹に向けてしまう。喉に矢が刺さった樹は倒れ込み、怖くなった絆星たちはそのまま樹を残して自宅へと帰ってしまう。

 樹が亡くなったことから、絆星への事情聴取が行われる。「人の幸せを奪っておいて、自分だけ幸せになるつもりか」という警察官の強い言葉に、自供する絆星。だが、絆星を溺愛する母親の真理(黒岩よし)は、偽りのアリバイを主張。少年審判では、警察の不適切な誘導尋問があったと弁護士が訴え、絆星たちは不処分となる。

 司法的には罪にならなかった絆星だが、ネット自警団は許さなかった。絆星の自宅の住所や通っている中学校の名前がネット上で明かされ、さらに樹の両親は民事訴訟を起こし、莫大な損害補償金を求める。絆星たち一家はローンの支払いが残っていた自宅を手放し、ネット上で新しい住所が晒されるたびに、また引越しを繰り返すという流浪の生活を始める。

 このシリアスな社会派ドラマを妥協せずに完成させるため、内藤監督は商業ベースではなく自主制作というスタイルを選んだ。10代の若者たちを中心にしたキャストはオーディションで選ばれ、撮影前に2カ月間にわたるワークショップが開かれ、少年犯罪や少年法の問題点について学んでいる。また、キャスト同士がいじめる側といじめられる側とを交代しながら演じる「ロールプレイング」なども行ない、いじめの構造や役の理解を深めている。ワークショップでの体験は作品の中に取り入れられており、10代のリアルな視点から少年犯罪を描くことに成功した作品だといえるだろう。

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