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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.590

息子を強盗殺人へと駆り立てた実在の事件が題材 “鬼母”長澤まさみが恐ろしい『MOTHER マザー』

平気で嘘をつき、借金を踏み倒す女

元ホストの川田(阿部サダヲ)が、秋子の内縁の夫となる。川田もまた金銭感覚がない。似た者同士の同棲だった。

 私(筆者)は、秋子によく似た人間を知っている。人当たりはいい。そして、神妙な顔で借金を頼んでくる。でも、一度貸したお金は決して戻ってはこない。「働いて、すぐ返すから」と口では言うが、本気で仕事を探した様子はない。そして、すぐバレるような嘘を平気で並べる。その場さえ凌げれば、それでよし。周囲の好意を無にすることも、自分の信頼を失うことも何とも思わず、建設的な将来のビジョンも持っていない。心の中が真っ暗闇な人間が、この社会には実在する。

 周平の不幸は、そんな女性を母親に持ってしまったことだった。学校に通うことができず、祖父母とも絶縁状態になっているため、他に頼るあてのない周平は母・秋子から離れることができない。

 なぜ秋子はまったく働かず、平気で嘘をつき、借金を踏み倒す女性になってしまったのかは、映画の中では説明されていない。気性の激しい母親(木野花)や大学に進学した妹(土村芳)との軋轢があったことを匂わせる程度となっている。つまりは普通の家庭に育っても、秋子のようなダメ親は生まれてしまうということだ。家族以外との交際関係や社会状況、そして秋子自身が持っていた性質などが複合的に絡み合い、自分ひとりではどうにもならなくなり、下へ下へと転がり落ちるだけの破滅的人生を歩むことになってしまったのだろう。同じように金銭感覚に乏しい川田と一緒につるむときだけ、秋子は不安感から逃れることができた。

 秋子と内縁の夫となった川田にネグレクトされて育った周平は、妹の冬華(浅田芭路)が生まれてからは、冬華の世話を甲斐甲斐しく焼くことになる。周平は優しい兄だった。冬華を自分の娘だと認めない川田は逃げ出し、周平は秋子、冬華と連れ立ってラブホテルや公園を渡り歩くホームレスとなってしまう。周平の置かれている状況はどんどん酷くなる一方だが、むしろ川田が消えたことで、周平は自分が家族を支えなくてはいけないという責任感が強くなっていく。最凶毒親である秋子だが、母親が頼りにしてくれることが周平にはうれしかった。

 児童相談所の職員・亜矢(夏帆)が生活保護の申請を手伝い、また周平の将来を心配する造園会社の社長(荒巻全紀)が救いの手を差し伸べようとする。だが、ようやく生活が安定しそうになると、秋子は全部をひっくり返して無にしてしまう。秋子はいつまでたっても真っ当な母親にはなれず、なまめかしい女のままだった。

 いよいよお金に困った秋子は、疎遠になっていた祖父母を殺害し、金品を奪うことを周平に提案する。殺人計画を持ちかけたときの長澤まさみは、これまでに見せたことのない冷たく、暗く、そして鬼のような美しい顔を見せる。

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