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あのスティーブ・ジョブズが崇拝した! ヒッピー時代にアメリカへ渡った禅僧の驚愕人生と素顔

ヒッピーの誘惑に負けて乱れた禅僧とは違う

あのスティーブ・ジョブズが崇拝した! ヒッピー時代にアメリカへ渡った禅僧の驚愕人生と素顔の画像4
シリコンバレーのロスガトス市にある慈光寺。

――ジョブズがスタンフォード大学でのスピーチで語った「Stay Hungry. Stay Foolish.(ハングリーであれ、愚直であれ)」について「あれは禅に通じる」と曹洞宗の秋葉玄吾さんが柳田さんの取材に対して答えていますが――『宿無し弘文』の帯にもこの言葉は「禅の教えだった!」と書かれていますが――、あれはもともと編集者のスチュアート・ブランドがヒッピーのバイブル的雑誌「ホール・アース・カタログ」に書いた言葉ですよね。とはいえ、ブランド的な全地球視点でのホーリズムと、仏教的な森羅万象はつながっていて、万物は流転していくというホーリズムに親和性があったから、禅が西海岸を中心に受け入れられた面もあるのでしょうか?

柳田 帯のあのキャッチは言いすぎですね(笑)。帯は著者は書けないですから、本が出るまで私もああいう文面になっているとは知らなくてちょっと驚きましたけど、まあ、帯は宣伝部分だからご容赦を。本文に嘘は書いていませんから。
 ともあれ、スチュアート・ブランドが仏教に入り込んだ人かというと、そうではない。でも、彼の奥さんはネイティブ・アメリカンですし、大地や宇宙と一体となったものの中に人間がいるというエコシステム的な考えを持っていましたから、思想的に通じるものはあったのかもしれません。

――弘文が渡米した60年代後半には、西海岸では禅僧が信じられないくらいモテた、という証言があって驚きました。

柳田 でも、本当にそうだったみたい(笑)。そのせいで日本から来た僧侶の中には堕落してしまった人もいたと曹洞宗の方たちから聞きました。その状況に気づいて乱れてしまったものを立て直すために、80年代、90年代以降、相当に苦労したみたいです。

――日系アメリカ人の仏教学者であるケネス・タナカさんが『アメリカ仏教』(武蔵野大学出版会)の中で、アメリカ仏教の特徴は出家主義というより在家主義、教義・経典よりもメディテーションやプラクティス重視、宗派が分かれていつつも交流があって多宗教へも寛容といったことだと書いています。柳田さんの本を読むと、弘文はそれに近いスタンスだと感じました。

柳田 私は最初、乙川弘文という人はいい加減な人物なのかなと思っていたんですよ。でも、そうではないんですね。先ほど言ったような、ヒッピーたちの誘惑に負けて乱れてしまった人たちとはやはり違う。彼は、曹洞宗の大本山・永平寺出身の人であり、駒澤大学で仏教を学んで、京大の大学院まで出ています。書いたものは残していないけれども法話は残っていて、それを読んでも非常にきちっと仏教や禅の勉強をし、修行を積んだ人だとわかります。それから、修士論文では「転依(てんね)」をテーマにしています。でも、転依という概念を知っているお坊さん自体が日本でさえあまりいない。相当なインテリです。その上で土地や人に合わせてキャパを広げた人だった。

――般若心経を解説する際に古代ギリシアの哲学者・プラトンの「洞窟の比喩」を用いるなど、仏教を西洋哲学と結びつけて語れる稀有な存在だったそうですが、そこに惹かれた人もいた?

柳田 弘文さんのお弟子さんたちは「どうやって食べているの?」と思うくらい貧乏だったりするんだけど、みんな学歴がイェールだとかスタンフォードだとか……それでいて生活能力がないから余計にすごい(笑)。つまり、そこらへんのお坊さんの語りでは納得しない頭がいい人たちです。けれども、弘文さんはそういう人たち相手でもきちんと話せた。おそらくジョブズにとっても、そこが魅力のひとつだったと思います。

――一方で、構えてやってきた相手に対しては「エンジョイ禅!」と言って心を軽くしたりと、柔軟だったと。

柳田 知識があるからといって偉ぶらないし、ひけらかさない。もともと禅は、「不立文字(ふりゅうもんじ)」といって依りどころとする経典を持ちません。ひとりひとりに違う接し方をするもので、弟子に対してもそれぞれ異なる指導をする。弘文さんもそこはその通りに、人を見て接しています。

――アメリカに渡った日本の禅僧の中でも、乙川弘文は特別変わった存在という印象ですか?

柳田 変わっていると思いますよ。あのはからいのなさ、浮世離れした感じは、今回の本の取材で日米欧をあちこち旅しましたけれども、珍しい気がします。「これをしたほうが得だ」みたいな考えがまったくないんです。

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