スパイク・リーをやっと世界が認めた!『ザ・ファイブ・ブラッズ』でみせたセンスとメッセージ性の融合

文=伊丹タン(いたみ・たん)

伊丹 やっぱり『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、スパイク・リーのそういう社会性とエンタメ性がいい具合に融合して凝縮されてますよね。彼はまた、音楽ありきの映画制作を実践してきた人でもあるけど、それがマイナーになりすぎずに、今回でいうとマーヴィン・ゲイっていう大ネタを使ってきてて。しかもめちゃくちゃ正統なメッセージですよね。アルバム『What’s Going On』のクロージングナンバー『Inner City Blues』なんて、このメッセージはこの使い方しかないだろってところで使われてますし。

大室 『What’s Going On』なんて、基本ベトナム戦争に異議を唱える曲だからね。

伊丹 スパイク・リーが、自分の映画製作について語ってるインタビューで「音楽が俺の映画にとって最大のキーだ」みたいなことを言ってたんです。音楽が決まったら、それによってシーンや編集を変えたりもしてると。音楽のテンポ感とエンタメ性とドライブ感、歌詞が持ってるメッセージ性みたいなことは、彼の作品の中で不可分になってますね。

 あと、彼はフィクションとノンフィクションを、ずるいまでに融合しちゃう。ふつう史実に基づく作品を作ろうと思ったら、過去の資料映像をいっぱい使いたいじゃないですか。でもそれをフィクションと混ぜるのは、報道系作品で1番危険なこととされていて。史実とフィクションを都合よく混ぜると「それってお前の勝手な主観じゃないの?」って言われかねない、タブーに近いやり方なんですよ。でもスパイク・リーはキャラが強いし、黒人代表として歴史がわかってて「これが俺の正統な歴史認識に基づいた創作表現なんだ」っていう治外法権の中で、過去の資料映像とフィクションを無邪気に組み合わせちゃう。それが許されてる稀有な存在。手法としてはちょっとマイケル・ムーアにも近いところがありますよね。

大室 そういう意味では、ほぼ司馬遼太郎でもあるよね。司馬史観というかスパイク・リー史観。「竜馬がゆく」みたいに、いつのまにかそれが一般人の歴史認識になっちゃうかもしれない(笑)。あとはやっぱり、プロットが強いからそうした複雑な構成も、面白く見られちゃうってのはあると思うけど。

名作『ドゥ・ザ・ライト・シング』(写真/GettyImageより)

伊丹 『ドゥ・ザ・ライト・シング』は作劇上、すごい複雑な構造ですからね。主人公がいるようでいなくて、暴動が起きるまでのそれぞれの人物の日常におけるストレスが溜まっていく群像を描いてて。カオス理論じゃないけど、みんなが爆発する瞬間にどういうことが起きていくのかっていうのを、俯瞰で見てるじゃないですか。

大室 カメラアイがいろんな所にいくからね。プロットが強くないから見にくいよね。

伊丹 当時あれを見た若い人たちの一番の疑問は「なんでこの人たちはこんなにイライラしてるんだろう」ってことだったと思うんですよ。最後にあんなにお世話になったお店をぶっ壊すところも理解できないですよね。

大室 しかも今だったら『半沢直樹』(TBS)みたいな、日本人は溜めに溜めて開放する、みたいなのが気持ちいいわけじゃない。それが最後ふわっと終わるっていうね。

伊丹 ある種の不条理劇というか、演劇的というか……。最初に“Fight the Power”っていうメッセージをしつこく提示して、でも始まってみたら前衛的な舞台設定で。決してエンターテインメントではないですよね。

大室 どちらかと言うと純文学に近いね。

伊丹 そうそう。スパイク・リーは正当に、映画や演劇を学んできた人ですから。そこで『ザ・ファイブ・ブラッズ』は黒人っていう自分が持ってきたエスニシティの問題を扱う上で、コンセプチャルというか、より志が高かったんでしょうね。それでいて今作はディテールもしっかりしてた。

大室 黒人帰還兵が夜になるとベトナム戦争のトラウマに悩まされるのとかね。そもそもPTSDって言葉が世界的に普及したのも、ベトナム戦争があったからなんだよ。ベトコンは常に隠れててどこから来るかわからなかった。非常に神経を使うし、夜に森の中にいるのなんかすごく怖かったわけですよ。それで帰還兵の人が何年たっても、突然情緒不安定になったり、鬱になってしまったりする。それを研究したから、PTSDっていうのが広がったというのも、描いてるんですよ。[button_more text=’批評家がこぞって激賞! やっと世界と噛み合った’


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