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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.609

自分を好きになれない貧困女子たちの下流ライフ 伊藤沙莉が主演のR15映画『タイトル、拒絶』

カノウに贈る言葉「地獄も極楽もあるもんけ」

 

コワモテの店長を演じているのは、人気ラッパーの般若。店の女の子に手を出すダメ店長だ。

 TVドラマ、CM、そして映画と、伊藤沙莉の活躍が目覚ましい。湯浅政明監督のTVアニメ『映像研には手を出すな!』(NHK総合)での声優ぶりも素晴らしかった。現在ネット配信中の『劇場』では小劇場の売れない役者、『全裸監督』の武正晴監督の新作『ホテルローヤル』(11月13日公開)では自宅に居場所のない女子高生を演じている。こじらせた役を与えると、伊藤沙莉は抜群にハマる。演じるキャラクターの吐く台詞のひとつひとつに女の本音が込められており、ゲスな役でも嫌味がない。

 本作の冒頭、半裸姿でラブホから街へと逃げ出すシーンは、伊藤沙莉ならではの陽性の魅力がほとばしっている。デリヘルで雑用係として働く姿を見ていると、『幕末太陽傳』(57)でフランキー堺が演じた「居残り佐平次」を彷彿させる。川島雄三監督の時代劇コメディ『幕末太陽傳』では遊郭で下働きする佐平次の視点から、江戸時代から明治時代へと時代が大きく変わる様子が描かれていた。

 邦画史に残る名作と比べるのもどーかと思われそうだが、社会の底辺から個人の力ではまなならない世の中を見つめるという構図で両作品は共通している。先行きの見通せない不透明な状況の中で、フランキー堺演じる佐平次は「地獄も極楽もあるもんけ。俺はまだまだ生きるんでえ」と啖呵を切ってみせた。要領のいい佐平次に比べると、かなり不器用なカノウだが、不器用なら不器用なりに愚直さを武器に佐平次とは異なる生き方もあるに違いない。

 冒頭で触れたお笑いタレントは長年独身生活を送っていたが、バッシング中に励ましてくれた知人女性との結婚に至っている。地獄に足を踏み入れたことで、大切なものの価値に気づくこともあるのではないだろうか。

 

『タイトル、拒絶』
監督・脚本/山田佳奈 プロデューサー/内田英治、藤井宏二
出演/伊藤沙莉、恒松祐里、佐津川愛美、片岡礼子、でんでん、森田想、円井わん、行平あい佳、野崎智子、大川原歩、モトーラ世理奈、池田大、田中俊介、般若
配給/アークエンタテインメント R15+ 11月13日(金)より新宿シネマートほか全国順次ロードショー
(c)Directors Box
http://lifeuntitled.info


『ホテルローヤル』

原作/桜木紫乃 脚本/清水友佳子 監督/武正晴
出演/波瑠、松山ケンイチ、余貴美子、原扶貴子、伊藤沙莉、岡山天音、正名僕蔵、内田慈、冨手麻妙、丞威、稲葉友、斎藤歩、友近、夏川結衣、安田顕
配給/ファントム・フィルム 11月13日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
https://www.phantom-film.com/hotelroyal

最終更新:2020/11/13 09:00
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