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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.610

愛ではなく、いい加減さが閉塞した世界を救う! 山本政志監督のトリップ映画『脳天パラダイス』

理屈抜きで楽しむ祝祭的空間

愛ではなく、いい加減さが閉塞した世界を救う! 山本政志監督のトリップ映画『脳天パラダイス』の画像3
浴衣姿で踊る南果歩。ロケ現場は異様な盛り上がりで、警察も出動するほどだった。

 細かい解釈は不要な映画だが、修治たち一家は今の日本社会そのものに置き換えることもできる。かつてない経済不況に見舞われているのに、いまだに高度成長期やバブル期のライフスタイルにとらわれ、身動きできなくなってしまっている。自分の抱えるストレスを発散させるために、ルール違反やマナー違反を犯した人間は容赦なくバッシングする。新しいものを生み出すことのできない、閉塞化した不寛容な社会となっている。

 現状の政治体制や社会システムをすぐに変えることは難しくても、あらゆる無礼講が許される祝祭的空間があれば、一人ひとりが抱えている浮世の垢はきれいさっぱり洗い流すことはできるのではないだろうか。山本監督は、そんな祝祭的空間を映画『脳天パラダイス』の中に用意してみせた。理屈抜きで、みんなアホになって、今を楽しめばいい。万人を愛さずとも、自分も周囲の人に対しても、もっともっと脳みそのネジをゆるめて「いい加減」になればいい。

 若いスタッフたちが生み出した祝祭的世界が、とても魅力的だ。撮影の寺本慎太朗、照明の渡邊大和、美術の木岡菜津貴は、本作が商業デビュー作になるそうだ。彼らがセッティングしたミュージカルシーンに、山本監督が作詞した「宇宙音頭」が気持ちよく流れる。

「いつかどこかで あなたに会える 銀河の海原さまよって ブラックホールを突き抜けて あなたに会えた喜びで 私の心は宇宙晴れ 私の心は宇宙晴れ♪」

 きっと、あなたの心も宇宙晴れ。映画館のスクリーンで、ぜひ楽しみたい。

『脳天パラダイス』
監督/山本政志 脚本/金子鈴幸、山本政志 撮影/寺本慎太朗 照明/渡邊大和 美術/木岡菜津貴
出演/南果歩、いとうせいこう、田本清嵐、小川未祐、玄理、村上淳、古田新太、柄本明
配給/TOCANA R15+ 11月20日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
c)2020 Continental Circus Pictures
https://no-ten.com

最終更新:2020/11/26 12:11
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