日刊サイゾー トップ  > 女性の意識の変化を描いた小津安二郎
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第1話

戦後、変化する女性の意識を描いた小津安二郎『麦秋』の生命力! 「今まで男が図々しすぎたのよ」

終戦後の女性の自立をお茶漬けで表現!?

 原さんは、豪快に朝食をかき込む登場シーンから始まり、終始笑顔を絶やさないカラッとした明るさの女性を演じています。

 子どもたちから「おばちゃん!」だなんて呼ばれているのには、ちょっと驚かされますが。劇中とはいえ、おばちゃんという言葉とは無縁の美しさの原さんに向かって……!子どもたちよ、なんと恐るべし!

 しかし紀子、そんな子どもたちに負けず劣らずの威勢の良さ。終戦後、女性が図々しくなったと言う兄に向かって、「今まで男が図々しすぎたのよ」「(お嫁には)行けないんじゃない、行かないの。行こうと思ったらいつでも行けます」と主張する姿はとても潔く、終戦後間もない時代、自立へと歩んでいった女性たちを彷彿させられました。戦後の新しい女性像が、いきいきと表現されていて、力強い生命力を感じます。他作品とは異なる原さんの魅力に、同じ女性として、とても好感を持ちました。こんな太陽のような女性、いつか演じてみたいなぁ。

 どのシーンの原さんも素敵ですが、特に印象的なのは、台所でお茶漬けを食べるシーン。結婚を一人で決断した紀子と、それに猛反対する家族。一家に気まずい空気が流れるのですが、その中で紀子は、台所で一人、黙々とお茶漬けを食べるのです。しかも、結構、豪快に。

 いつも明るかった紀子から笑顔が消え、その表情は、反対する家族にふてくされているような怒っているような。でもちょっぴり寂しそうで。自立への扉を開いた決心のようにも見えるし、もう家族で食卓を囲めない選択をした寂しさにも見える。こういう昔ながらのおうちの台所って、少しひんやりしていますよね。その温度感も想像すると、やっぱり切なく感じます。

 しかもこのカットの最後、紀子はお茶碗にもう一杯、ご飯をよそおうとするんです。昔の女性って食欲旺盛なイメージがあまりないので、少し驚きました。こんな時でも人間お腹は空く。いや、こんな時だからこそお腹が空くのかもしれませんね。生きるためには食べなきゃいけない。その食欲から人間の本質が垣間見え、それが何だか色っぽくも見えるのです。途中でちらりと家族のいる方向へ目をやり、視線を落とす仕草をするのですが、切なさと同時に憂いを帯びた表情にも見えます。一つの動作で、観客に振り幅のあるいろいろな感情を抱かせられるのは、原さん自身の品格が軸にあるからかなぁと思います。

 この作品、他にも「食」と人間模様が結びつけられている場面が多くあります。紀子が家族とすき焼きを囲み、涙を浮かべるシーンがあるのですが、自分がもし結婚することになったら……と考えて、毎回うるっとしてしまいます。

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