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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.627

家賃や住宅ローンは払わないという新しい生き方 自由を求める現代の遊牧民たち『ノマドランド』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

アカデミー賞最有力作『ノマドランド』。米国の格差社会の現状をリアルに描き出している。

 北米大陸に、ノマドと呼ばれる新しい生き方が広まりつつある。ノマドはもともとは遊牧民、放浪者を意味していたが、現代のノマドはバン、RV車、トレーラーハウスなどで暮らし、仕事を求めて北米中をさまよい続ける。映画『ノマドランド』(原題『Nomadland』)は、ノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(春秋社)をベースにした社会派ドラマだ。経済格差が生み出した新しい生き方・ノマドたちの常識や世間体に縛られない柔軟な生き方を広大なランドスケープの中に映し出している。

 なぜ、21世紀の現代にノマドと呼ばれる遊牧民が増え始めたのか。その大きなきっかけとなったのが、2008年に起きたサブプライム住宅ローン危機だった。富裕層ではなく、中流層が食いものにされたこの金融危機によって、財産を失う人が続出した。離婚や一家離散、将来に対する絶望を味わった彼らはマイホームを持つ夢を捨てる代わりに、RV車やトレーラーハウスを購入(もしくはレンタル)した。長年にわたって住宅ローンや収入の半分以上を占める家賃を支払うことが嫌になった人たちが、これに続いた。

 ノマドの多くは白人高齢者が占める。年金では食べていけないので、働かざるをえない。かつての遊牧民は牧草を求めて旅を続けたが、現代のノマドたちはスマホやノートパソコンなどを駆使し、最新の情報を共有し、季節労働者を求めている企業のある街を渡り歩く。この映画の主人公となるファーンもそのひとりだ。

 米国西部のネバダ州で暮らす60代の女性・ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、愛する夫に先立たれて、ひとりぼっちだった。長年勤めていた企業が経営難で倒産し、企業城下町だった街そのものが閉鎖されてしまう。ファーンは思い出の品々を中古のバンに積み込み、終わりのない旅へと出発する。

 ファーンは知的かつ几帳面な性格で、コミュニケーション能力も高い。それでも職を失い、家も失うことになった。代用教員を務めたこともあるファーンに、かつての教え子が問い掛ける。

「先生はホームレスになっちゃったの?」
「いいえ、ホームレスじゃないわ。“ハウスレス”よ。別物なの」

 自分の意思で、家を捨てたのだ。自尊心の高さが、ノマドの心を支えている。

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