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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.627

家賃や住宅ローンは払わないという新しい生き方 自由を求める現代の遊牧民たち『ノマドランド』

ノマドたちを吸い込むアマゾン社の巨大倉庫

製作も兼任した主演女優フランシス・マクドーマンド。米国の田舎暮らしの女性役が似合う。

 映画『ノマドランド』はセミドキュメンタリー仕様となっている。70代になるリンダ・メイは陽気なおばあちゃんで、ノマドたちのメンターであるボブ・ウェルズは大恐慌時代のホーボーの主を思わせる風貌だ。そんな実在のノマドたちが、原作と同様に本人役で登場する。生活感たっぷりなキャンピングカーやトレーラーハウスで旅を重ねる彼らの中に、『ファーゴ』(96)、『スリー・ビルボード』(17)でアカデミー賞主演女優賞に2度輝く名女優フランシス・マクドーマンドが溶け込んでいく。その姿にハリウッド女優の面影はない。あるのは、ひとりで生きている女としての毅然とした佇まいだ。マクドーマンドには芯の強い田舎の女性役がよく似合う。

 ノマドの先輩であるリンダ・メイの手引きで、ファーンはさまざまな季節労働に従事する。なかでも圧巻なのが、アマゾン物流センターの巨大倉庫。クリスマスシーズンが近づくと、倉庫から商品の数々をピックアップする労働者が大量に雇い入れられる。毎年恒例となっており、アマゾン社が用意した広大な駐車場に、北米中からノマドたちが押し寄せてくる。時給は悪くはないが、日の当たらない巨大倉庫内での単純作業が延々と続く。倉庫内を歩く距離数は、1日20km以上におよぶ。シニア世代にはかなりのハードワークだろう。

 ノマドたちはひとつの土地に縛られず、また物を所有すること望まないミニマリストであることが多い。必要な物があれば、ノマド仲間から借りるか、もしくは物々交換で手に入れる。ガソリン代以外は、なるべくお金を使わずに済む生活を送っている。だが、映画の中では彼ら彼女らの矛盾した姿も映し出している。物欲とは距離を置いているノマドだが、物質文化の象徴といえるアマゾン社に労働力を提供している。仕事はしんどいし、人々の物欲を煽るような風潮には抵抗もあるだろう。それでも、ファーンたちは食べていくためには、働かなくてはいけない。食べて、寝て、生きるということは、社会の矛盾とも向き合うということ。そして、自分らしさとの均衡を保つということ。ノマドという生き方は、決して楽な選択肢ではない。

 クリスマスシーズンが過ぎれば、アマゾン社は雇用人数をぐっと減らす。「さようなら、また来年」を合言葉にノマドたちは駐車場を去り、次の仕事を探しに向かう。ファーンは職選びに好き嫌いを見せず、どんな仕事にも挑戦する。夏には自然公園のキャンプ場スタッフとなり、秋にはビーズ畑の収穫を手伝い、季節労働がないときは、ウォールマーケット内にあるファストフード店の従業員となる。街の求人課の窓口係は「年金の早期受け取りを申請すれば」と助言するが、ファーンは首を横に振る。体が動くうちは休まずに働きたい、日々働くことで社会と繋がっていたいと彼女は考えている。

 ノマド仲間たちは病気や怪我、孫の誕生をきっかけに、家族のいる故郷へと帰っていく。ひとりぼっちになるファーン。荒涼とした大平原にぽつんと取り残された古ぼけたバンで、ひとりで夜を明かすのは淋しい。冬は凍え、夏は蒸す。仕事がいつも見つかるとは限らないし、将来に対する不安はつきまとう。女性がひとりで車内泊しているのは、そもそも危険だ。それでも、ファーンは新しい種族であるノマドとして、旅を続ける。何よりも自由であること、誰からも束縛されないことを大切にしている。
 

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