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低迷する出版界に嵐を呼ぶトリックスター登場!大泉洋主演、吉田大八監督の快作『騙し絵の牙』

出版界の仁義なき戦いを描く『騙し絵の牙』。人のよさそうな大泉洋に要注意。

 すっかり騙されてしまった。しかも、気持ちのいい騙され方だ。大泉洋主演、吉田大八監督による映画『騙し絵の牙』は、観客の予測を次々と裏切っていく。原作者の塩田武士さえも、映画を観て「やられた!」と心の中で思ったのではないだろうか。『桐島、部活やめるってよ』(12)や『紙の月』(14)を手掛けた吉田監督は、出版業界を舞台にした原作小説を見事に換骨奪胎し、コンゲームさながらのエンタメ映画へと昇華してみせている。

 もともとの原作小説から、主人公は大泉洋をイメージして書かれていた。表情によっては二枚目にも三枚目にもなる、愛嬌のある人たらしの雑誌編集者が、出版不況に揺れる大手出版社でサバイバルするミステリー小説だった。大泉をあてがきして生まれた主人公・速水を、吉田監督は一歩先の状況すら読むことができない不透明な現代社会を面白がるトリックスターとしてさらに脚色している。客席のみならず、映画界や出版界にも、速水は大胆なトリックを仕掛けてみせる。

 速水(大泉洋)は大手出版社・薫風社で発行されるカルチャー誌「トリニティ」の新任編集長。これまでに、いろんな雑誌社を渡り歩いてきた。薫風社の社長が急死し、社内改革を進める営業担当の東松専務(佐藤浩市)が新社長に就任。社員編集者たちは自分のいる雑誌が廃刊にならないかどうかを心配し、雑誌の特集はハズさない安全な企画しか組まなくなっていた。だが、速水は手垢のついたネタには興味を示さず、無謀と思われる新連載に情熱を燃やす。

 速水の行動基準はとても明快だ。すべては「面白いかどうか」。結果は読めないものの、速水が「面白い!」と感じた企画を、彼自身がドキドキしながら、手八丁口八丁で突破口を見出していく。当たりそうな企画を無難な誌面に落とし込むよりも、当たるかどうか分からないが自分が「これは!」と直感した企画をヒットさせた方が断然面白い。速水にとって雑誌編集は、大人の玩具のような感覚だった。

 文芸誌「薫風」の新人編集者だった高野(松岡茉優)は「薫風」の人員削減に伴い、編集部での居場所を失ってしまう。途方に暮れる高野だったが、小説の目利きができる能力を速水に買われ、「トリニティ」へと異動することに。速水にさんざん振り回され、最初は迷惑顔だった高野も、次第に速水の行動力に感化されていく。自分が本当に惚れたもの、ワクワクする企画に挑戦する面白さに目覚める。

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