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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.623

人生最期の日々は、自宅で穏やかに過ごしたい? 柄本佑主演の終末医療ドラマ『痛くない死に方』

柄本佑が成長過程にある在宅医を演じる、高橋伴明監督作『痛くない死に方』。

 自宅で亡くなった遺体は軽いが、大学病院で亡くなった遺体はずっしりと重い。枯れて死ぬ最期(平穏死)と溺れて死ぬ最期(延命死)とでは、10kg以上の体重差があるという。長尾和宏医師の著書『痛くない死に方』(ブックマン社)には、そう書かれている。大量の薬漬け、過剰な点滴や酸素呼吸を受ける延命治療は、患者から穏やかな人生の最期の日々を奪うことになりかねない。だが、平穏死は本当に楽なあの世への旅立ちなのか? 高橋伴明監督、柄本佑主演映画『痛くない死に方』は、長尾医師の著書をベースに、尊厳死のあり方を描いた問題提起作となっている。

 いつかは誰のもとにも、必ず訪れる人生最期の日。できればなるべく苦しまずに、穏やかにその時を迎えたいもの。救急車で大病院へと担ぎ込まれると、酸素呼吸器に点滴といった延命治療が待っている。口から食事ができない場合は、胃ろう手術を受けるケースも多い。チューブだらけで、人生の最期を過ごすことになる。でも、在宅治療なら、自宅で好きな音楽を聴き、体が動く限りは趣味に没頭することもでき、好きな食事を用意してもらうこともできる。長尾医師の書いた『痛くない死に方』を読むと、在宅医療を受けながら平穏死を迎えるのがベストのように思える。しかし、映画『痛くない死に方』では安易に在宅医療を選択すると、患者本人も看取る家族も大変な目に遭う可能性についてもしっかり触れている。

 映画『痛くない死に方』の主人公は、在宅医療を専門とする訪問医になって間もない河田(柄本佑)。訪問医なら元手がいらず、開業医になる早道だと考えた河田だったが、現実はそう甘くない。映画の序盤、大きなミスを犯してしまう。智美(坂井真紀)の父親(下元史朗)は大学病院で末期の肺がんと診断されたが、病院での延命治療は断り、自宅で穏やかに過ごすことを望んだ。大学病院のカルテを読んだ河田は、「がんは急には来ません」と10日後に再訪すると言い残して、去っていく。だが、智美の父親は苦しみ続け、河田が渡していたモルヒネの座薬も効かなくなってしまう。

 河田が再び訪れたときには、すでに智美の父親は亡くなっていた。父親に無駄な苦しみを与えたくなかったので在宅治療を選んだのに、逆の結果を招いてしまった。「私が父を殺したのですか?」という智美の言葉が、河田に突き刺さる。ベテラン訪問医である長野医師(奥田瑛二)にこの件を相談すると、「大学病院の診断が間違っていた可能性がある」という答えが返ってきた。死因は肺がんではなく、肺気腫だったのではないかと。大病院のカルテを鵜呑みにし、マニュアルどおりに対応していた河田は大きなショックを受ける。河田は自分が「痛い在宅医」だったことを自覚せざるをえなかった。

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