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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.631

“セックス史観”で日本社会を見つめた大島渚監督 『戦場のメリークリスマス』『愛のコリーダ』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

一発撮りの緊張感が撮影現場を支配した

映画に初出演した坂本龍一は、映画音楽も初めて手掛けることになった。

 企画当初は、セリアズ役にロバート・レッドフォード、ヨノイ役に高倉健、ハラ役に緒形拳が想定されていたそうだ。大島監督は米国まで出向き、レッドフォード本人に出演交渉したが、米国市場向けの内容ではないことを理由に断られた。そこで一新されたキャストが、ロックスターのデヴィッド・ボウイ、忌野清志郎とコラボしたCMソング「い・け・な・いルージュマジック」が話題となっていたYMOの坂本龍一、お笑い界に革命を起こしたビートたけしという、画期的な顔ぶれだった。大島監督の直感だった。

 南太平洋の孤島・ラロトンガ島で撮影された『戦メリ』への出演がなかったら、坂本龍一のあのテーマ音楽は生まれず、映画音楽への参加もずっと後になっていただろう。ビートたけしもそうだ。大島監督の撮影現場を体験したことが、映画監督・北野武の誕生に大きな影響を与えたことは間違いない。デヴィッド・ボウイは『戦メリ』公開と同年に発表されたアルバム『レッツ・ダンス』が大ヒットし、カルトスターからメジャーなアーティストに変身する。キャスト、スタッフ、そして観客に、さまざまな化学反応を呼び起こしたのが『戦メリ』という映画だった。

 大島監督はリテイクを嫌った。一発撮りの緊張感が撮影現場を支配していた。それまで演技経験のなかった坂本龍一とやはり少なかったビートたけしは、お世辞にも演技がうまいとは言えない。でも、この2人の存在なくしては化学反応も起きなかった。演技ではないものが、フィルムには映っている。

 映画のクライマックス、セリアズがヨノイ大尉を抱擁する有名なシーンがある。2015年に発行された『「戦場のメリークリスマス」30年目の真実』(東京ニュース通信社)には、抱擁シーンがスローモーションになったのは演出ではなかったことが明かされている。まさかのカメラトラブルから、抱擁シーンの撮影済みフィルムは使用不要となっていた。それでも使えるわずかなフィルムのコマを繋いだところ、コマ飛ばしのような奇妙なシーンに仕上がったという。トラブルさえも幸運に変えてしまう強靭なパワーが、撮影時50歳だった大島監督にはあった。戦時下における同性愛をテーマにした日本人監督の映画が、世界的な大ヒットになったことも含め、いくつも奇跡が『戦メリ』では起きている。

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