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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.631

“セックス史観”で日本社会を見つめた大島渚監督 『戦場のメリークリスマス』『愛のコリーダ』

「二・二六事件」と同じ年に起きた猟奇殺人事件

阿部定事件を映画化した『愛のコリーダ』。わいせつか芸術かで裁判となった。

 スキャンダル性では『戦メリ』を上回ったのが、1976年に公開されたR18映画『愛のコリーダ』だ。「阿部定事件」を描いた『愛のコリーダ』は、藤竜也と松田英子が撮影中に本番行為を行ったことが大きな話題となり、わいせつか芸術かという裁判騒ぎに発展した。日本で撮影だけ済ませ、ハードコアが解禁されたフランスで編集し、日仏合作映画として逆輸入公開している。歴史に残るスキャンダルには、用意周到さも必要だった。

 家庭に恵まれず、男に騙される人生を送っていた元芸妓の定(松田英子)は女中として働き始めるが、男っぷりのいい料亭の主人・吉蔵(藤竜也)と出逢い、相手が死ぬまでひたすら愛し続けることになる。世間を騒がせた『愛のコリーダ』は、それだけのシンプルな物語だ。

 ただし、阿部定事件が起きたのは昭和11年(1936年)5月だった。「二・二六事件」が起きて間もない、血生臭い時代だった。「二・二六事件」をきっかけに、日本は転がり落ちるように戦争へと向かう。そんな不穏な社会情勢の中、定と吉蔵は旅館に篭り、性愛の限りを尽くす。そして、拘束プレイで絶頂を味わった吉蔵は、もう他の女性は愛せないようにと定によって男性器を切り取られる。部屋の中には、死に至るエロスの匂いが充満していた。『戦メリ』と同様に、こちらも「匂い」にまつわる映画となっている。

 大島監督は『愛のコリーダ』では、声高に反戦を叫んではいない。だが、映画の序盤で年老いた浮浪者(殿山泰司)の男性器を子どもが国旗でつつくなど、国家へのアイロニーはたっぷりと込めている。天秤に掛けられる、国家とセックス。定と吉蔵にとっては、この国の行く末よりも目の前にいる愛人と命の限界まで愛しあうことの方が重要だった。

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