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『クイーンズ・ギャンビット』が描く“女性の解放”とは?──自由主義に矛盾しないNetflix的フェミと多様性

文=河野真太郎

──女性棋士が男ばかりのチェスの世界を制するドラマ『クイーンズ・ギャンビット』が大ヒットしたが、Netflixにはフェミニズムやダイバーシティに関して“意識が高い”コンテンツが数多い。それらはみな“リアル”で“正しい”ものなのか? 著書『戦う姫、働く少女』(堀之内出版)で知られる専修大学教授の河野真太郎氏が斬る!(月刊サイゾー3月号より一部転載)

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チェス界の男性たちをなぎ倒していくのが痛快な『クイーンズ・ギャンビット』。(写真:Everett Collection/アフロ)

 Netflixは素晴らしいクオリティの作品を量産してきており、日本の俳優たちや映像作品制作者たちの多くも、熱い視線を送っているだろうと想像される。最近であれば『今際の国のアリス』(2020年)の成功が示したように、Netflixで配信されることとはすなわちグローバルな視聴者に作品を届けられることにほかならないからだ。

 そのときに、ひとつ大きな「問題」がある。性の平等やダイバーシティといった、「政治的公正(ポリティカル・コレクトネス)」と作品との関係である。実際、Netflixのオリジナル作品、もしくは独占配信作品における性の平等やダイバーシティの基準は非常に「高い」ものになっている。ただし、それはNetflix作品が「政治的公正にがんじがらめになったメディアだ」ということではまったくない。それどころか、平等で多様であることが美学的にも素晴らしい作品へと結実しているのだ。

 例えば、本年の1月にシーズン3が完結した(シーズン4・5の制作も決定している)『スター・トレック:ディスカバリー』を見てみよう。この作品は『スター・トレック』シリーズの第6作であるが、アメリカとカナダ以外の全世界ではNetflixによって配信されている。『スター・トレック』といえば、SFではあるものの、その中心テーマには多文化主義やダイバーシティが存在してきた。最新の映画版『スター・トレック BEYOND』(16年)では、日系のキャラクターであるヒカル・スールーがゲイとして描かれた(これはオリジナルのスールー役であるジョージ・タケイへのオマージュともされる)。

 だが、『ディスカバリー』は過去のどの作品にも増して多様性の高い作品となった。主人公のマイケル・バーナムは黒人女性であり、物語の始まりはアジア系の女性艦長であるフィリッパ・ジョージャウとマイケルとの師弟的な関係を軸とする。

 これまでの『スター・トレック』は、多様性に「気配り」はあっても、あくまで艦長はタフな白人男性であり、それは中心が揺らがない多様性であった。『ディスカバリー』はそれを打ち破った。シーズン3になってみると、ディスカバリー号の艦橋には、艦長はもちろん、白人シスヘテロ男性の乗組員はひとりもいなくなるのだ(シス[シスジェンダー]とは出生時に割り当てられたジェンダーと性自認が一致していること。また、ヘテロ[ヘテロセクシュアル]は異性愛)。艦長は後進的な被捕食種族のケルピアン人のサルーであるし、同性愛者はもちろん、ノンバイナリー(男女の二項対立的性のどちらにも属さない)のアディラ・タルとトランスジェンダーのグレイ・タルが重要な役割を果たす。

人種の壁を超える「戦う姫」たちの連帯

 Netflixの作品は、こうした『スター・トレック:ディスカバリー』に象徴されるようなダイバーシティを基調とするものになっている。『グレイス&フランキー』、『AJ&クイーン』といったドラマ、また『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』といったドキュメンタリーなど、LGBTQ関連のおすすめできる作品は目白押しだ。そして、現在はLGBTQと同義と考えられている性的なダイバーシティを、歴史的に推し進める原動力となったのはフェミニズムである。そのフェミニズムの観点からも、Netflix作品には見るものが多い。

 例えば20年に異例の大ヒットとなったミニドラマ・シリーズの『クイーンズ・ギャンビット』などは、その最新版だろう。この作品は、孤児であった主人公のベスがチェスの才能を開花させ、男性中心社会であるチェスの世界でなみいる男性棋士たちをバッタバッタとなぎ倒す、痛快なドラマである。

 秀でた能力と努力で男たちをしのいでいく女性の物語をフェミニズム的物語と呼べるとして、そのような物語はまったく新しいというわけではない。「戦う姫」たちの物語は、早くは1980年代から盛んに語られてきた(ジブリの女性主人公たちや、『エイリアン』[79年]や『ターミネーター』[84年]を考えればよい)。

 その最新版は、これまた昨年Netflixで配信された映画『オールド・ガード』であろう。シャーリーズ・セロンが演じる不死身の戦士アンディは、ほかの不死身の戦士の男たちを統率する凜とした女性リーダー。そもそもシャーリズ・セロンという俳優は、現代の映像作品における「戦う姫」の代表である。『スタンドアップ』(05年)、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)、『スキャンダル』(19年)といった作品で、彼女は現実であれファンタジーであれ、男性中心社会に対して戦うフェミニズム的な人物像を演じてきた。『オールド・ガード』はそこに、彼女に「弟子入り」する黒人女性のキャラクターを置くことで、人種の壁を超えた「戦う姫」たちの連帯を演出してみせた。

 人種の壁を超えるといえば、『セルフメイドウーマン~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』は、黒人女性で初めての大富豪となったサラ(マダム・C.J.ウォーカー)の伝記的ドラマだ。貧しい洗濯婦であったサラは、毛生え薬の販売を足がかりに立身出世していく。

 ドラマ以外にも、Netflixにはフェミニズムや女性の活躍についてのドキュメンタリーも用意されている。第2波フェミニスト(ウーマン・リブ運動)の女性たちの証言を集めた『フェミニストからのメッセージ』や、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスらの戦いを描いた『レボリューション―米国議会に挑んだ女性たち―』だ。

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