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【短期集中連載】音楽ライターが検証する『大豆田とわ子と三人の元夫』のED評

大豆田とわ子のED曲「Presence」が際立たせる物語のテーマ ドラマとリンクし、内容をフラッシュバックさせる緻密な戦略

なぜここまで上質なエンディングを作ったのか?

 では、なぜこれほどまでエンディングにこだわったのか? もちろん、話題性もあるだろう。松たか子のような国民的女優をインディシーンで活躍するラッパーたちと並べる試みは、単純に意外性に富んでいる。「明日、春が来たら」や『アナと雪の女王』の主題歌である「Let It Go」など、汚れのない清廉潔白の歌い手という印象を逆手に取っているからだ。

 ラッパーとのコラボに加え、短いながら強烈なインパクトを残す元夫たちによるパートも相まって、普段の松以上に歌唱力は際立って聴こえる。事実、シンプルにボーカルを録った印象のあるラップのパートと、松たか子(および元夫役の3exes)の歌うコーラスが並ぶと、松の歌唱力は余計に際立つ。しかし、ドラマを進めると意外性だけではないことにも気づかされる。

 以下は筆者の推測だが、ラップを用いるだけでなく、毎回ラッパーを替える試みは、このドラマがラブコメディでありながら、主題が恋愛では無いという“特殊性”を際立たせるためではないだろうか。

 例えば、とわ子が離婚した3人の夫の誰とも復縁しないことを宣言しているように、このドラマは「どの夫がとわ子を惚れ直させるか?」を楽しむストーリーではない。では何を楽しむのか? 人それぞれの自由が徐々に認められつつある現代社会において、十人十色の幸せを人間関係に見つけ、維持する難しさという、ともすれば重くなりがちなテーマだ。それをコメディと音楽でライトな印象に仕上げている。

 自分なりの幸せを追い求めた結果、3度の離婚を経験したとわ子。だが、キャッチコピーにある通り「ひとりになりたいわけではない」。

 また、元夫たちもとわ子だけを狙っているのかといえば、そうでもない。彼らにはそれぞれ恋仲になりそうな女性が存在し、その女性たちも彼らを世の中で数多いる男性のひとりとして認識している。その様子は、最新話である第6回で明らかになっている。

 それぞれの登場キャラクターは、同じドラマの枠内でもそれぞれの人生の主人公であると感じさせるストーリー。それを再確認する意味で、同じエンディング曲の上で話者を替えて代弁させることに意味がある。

 同じ曲に違う演者が自由に歌えるのはラップの強みだ。そしてここでもまた、過去・現在・予測できない未来と繋がるストーリーだからこそ、楽曲のタイトル「Presence」は、よりドラマのテーマ性とも結びつくわけだ。

斎井直史(ライター)

音楽ライター。主な執筆の場はOTOTOYでの『パンチライン・オブ・ザ・マンス』の連載。その傍ら年に数回、他媒体での寄稿を行う。

Twitter:@nofm311

さいいなおふみ

最終更新:2021/05/23 12:00
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