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舞台『蟻地獄』特別インタビュー

インパルス板倉俊之「答えを出してから死にたい」──小説とお笑いの間で続ける人体実験のゆくえ

インパルス板倉俊之「答えを出してから死にたい」──小説とお笑いの間で続ける人体実験の画像1
写真/二瓶彩

「足掻き続けろ、絶望から這い上がるまで──」

 そんなキャッチフレーズがつけられた、舞台『蟻地獄』がインパルスの板倉俊之脚本・演出で上演される。原作は板倉が役10年前に書き上げた同名小説だ。小説家としての顔、そして早くからブレイクを果たした芸人としての顔。現在は「腐り芸人」としても脚光を浴びている。数々の「地獄」を経験しながらも、常に泰然自若として独特の立ち位置にいるその理由とは。

――去年コロナの影響で中止になってしまった舞台『蟻地獄』が、今年スケールアップして初演を迎えます。

板倉 そうですね。まあ単純に劇場が同じところ取れなくて、去年より広いところになっちゃった(笑)。

――なるほど(笑)。公式サイトにある板倉さんのコメントを拝見したら「鬼演出家」でいくか「仏演出家」でいくか迷っているとおっしゃっていましたが、結局どちらのタイプで行くことに……?

板倉 人生1度は鬼演出家を経験していきたいんですが、やっぱり嫌われるのは嫌だから、その解決策として、(出演する)天津の向(清太朗)くんにだけ、鬼演出家でいこうかと。それなら周囲から嫌われずに思い出も残せる。

――周りの人も「向さんにだけすごい当たりキツいな……」と。

板倉 彼は特殊な訓練を受けてるんで(笑)。

インパルス板倉俊之「答えを出してから死にたい」──小説とお笑いの間で続ける人体実験の画像2

――舞台のタイトルは『蟻地獄』ですが、板倉さんは今までいろいろな地獄を体験されて、そこから常に這い上がってこられて。ちょっと言い方が難しいのですが、板倉さんのそういった不屈の魂は、今現在地獄にいる人にとってはすごい希望なのではないかと。

板倉 (笑)。『蟻地獄』書いてたのは30歳くらいの時だから、十何年前に書いてたものなんですよね。だから、僕としてはそこの自覚はあまりなく、這い上がってる風に見えるのかもしれないですけど(笑)。僕としてはずっとやり続けてるだけですけどね。

――原作を書かれてたときと今と、ものの見方は変わってきていますか?

板倉 そうですね。『蟻地獄』はエンターテインメントに振ったので、そんなに自分の主義主張を言いたいものでもなかった。「あぁ、このときの俺若いなぁ」みたいな感じはないですけど、最初に書いた『トリガー』はちょっとそういう部分はあります。

『蟻地獄』は……人殺しも自殺者も、みんな異常者扱いするけど、みんな紙一重じゃないかなって。いわゆる普通の人が1個の出来事で、どっちに転じちゃうかわからない。だからそこら中に『蟻地獄』みたいなものがあって、そこに嵌(は)まらずに生きてる人が「自称普通の人」になってる。

――普通でいられるのもたまたまで、落ちてしまうのもたまたま。

板倉 そうですね。

――板倉さんは「腐り芸人」としても絶大な支持を集めていると思うのですが、たとえば小説のテーマやコントやインタビューなど……そういうものの中で感じる板倉さんは「腐り」というより、興味本位で地獄を覗きに行っちゃうみたいな感じがするんです。

板倉 あぁ、でもそうかもしれないです。自分の哲学を完成させるために情報を得たいのかもしれません。自分の身体で人体実験してる、みたいな。

――痛みを伴うものですよね?

板倉 そうですね。人間学というか、死ぬまでにこの世界の謎を解きたいっていうのはある。既存の宗教とか哲学じゃない。たとえそれが間違いである可能性が高くても、自分的に「あ、こういうものなんだ」っていう答えを出してから死にたいっていう。

――そういう願望はずっと前からあったものですか?

板倉 その答えがハッキリしないと、なかなか難しくないですか、普通に生きていくのって。そこがぼんやりしていると、上手く生きても結局「なんのために?」って絶対思っちゃうんで。どうせ死ぬのにって。

――人生の意味みたいなものを考えたときに。

板倉 そうです。みんな目先のことを悩むことでそれを鎮痛剤みたいにしてますけど。長い目で見たら「なんのために?」を早めに設定できたほうが生きやすいんじゃないかなと思って、早くその答えにたどり着きたいんですよ。

――「世界の謎を解きたい」の、一つのアウトプットが、コントのネタになったりするのでしょうか。

板倉 あぁ……ただ、芸人始めるときはそこまで考えてなかったんですよね。19とか20歳だったんで。ただ単純に、友達としゃべってて友達が笑うと、人間って気持ちいい。クラスの40人が笑うともっと気持ちいい。さらに100人が笑うと……結局、中毒じゃないかと思ってて。笑いっていう快感を浴びたいという。

――段々、強い刺激を求めていってしまう……

板倉 そう。なので、芸人と「世界の謎」の話はちょっと別かもしれないです。笑いって笑いを起こすための装置だから、主義主張はないほうが笑いは起こりやすいはず。ズラす作業ですから。「普通こうだよね」っていうのをズラして破壊して笑いにすることが多いので。

――「当たり前」を破壊する。

板倉 そうですね。『桃太郎』を下敷きにしたネタが多いのはそういうことだと思います。みんなに浸透してる知識をズラすっていう作業。普通こう行くっていうのが浸透してるからズラすとウケる。それが笑いの基本ベースにあると思います。

――生きることの意味や哲学を知りたいという願望と、芸人として人を笑わせたいという欲望は、別のベクトルだと。

板倉 そうですね。だから29くらいのときに小説を書き始めたんです。そこで笑いでは表現できないこと、また別の表現方法を見つけた感じでした。小説は笑いを起こす装置じゃないから、いつもと全然使う脳も違うし。真剣にストーリーを突き詰めることって、「じゃあこの対極にいるやつはどう思うだろうか」を繰り返す作業なんですね。なんていうんですか、自分で自分を否定する、自分と自分が言い合いしてる感じですね。

――なかなかヘビーな……

板倉 そうなんですよ。本当小説家の人はすごいなと思うのが、僕はその作業でぐぐっと自分の深いところに入っていっても、お笑いの現場に行けば正常に戻る。でも小説家は四六時中これやってるわけで。最終的に「無意味」って結論に至りそうじゃないですか。

――お笑いの現場に行くと正常に戻るのはどうして?

板倉 あそこではもう笑いを起こすことしか考えてないんで。その瞬間は自分の悩みがちっぽけに思えたり。「俺すげえ難しいこと考えてたな、今朝まで」みたいな。

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――小説を書く時に気をつけてることはなんでしょうか。

板倉 『トリガー』の時はとにかく自由に書いてました。だからなのか「視点がコロコロ変わるのが小説としていかがなものか」みたいな意見があって、じゃあそれと真逆のことやってみよう、と思って取り組んだのが『蟻地獄』でした。主人公以外の視点を使わずにミステリー書いてやろうと。

――すごい、批判をそういう形で次に生かす。

板倉 やったことないことをやっていきたいんですよ。ネタを思いついても『あぁこれ、あれと同じ感じだなぁ』と思うともう、興ざめしちゃう。全部ぶっ壊して……っていうのが好きなんすよね。ただこれ、めちゃめちゃ不利で。同じシステムでずっとやってる人のほうが大量生産できるし。だから相当効率悪いっすね、僕は。小説も、ネタも。

――しかも板倉さんはインプットも多いですよね。知識が多いとその分「あれと同じ感じ」の罠も増えそうな気がするのですが。

板倉 僕の自分的な救いは、俗物的なモノに引っ張られるってことかもしれません。「人生の意味」とか難しいこと考えてる人って、サバゲーとか興味ないと思うんですよ。でも僕はそこ昔から「鉄砲かっこいい」とか「バイクかっこいい、車かっこいい」とか、そういう俗物的なモノにすぐ引っ張られちゃって、そこが悩みでもあったけど、実は救いなんじゃないかなって思い始めてます。

――救い。

板倉 サバゲーで「この部隊のこの装備集めたい」ってなったら、もうさっきまでの難しい話も全部ぼんっ、と吹っ飛んで、気づいたら装備検索してる(笑)。そこが普通に生きられてる要因なのかもしれないなって。

――なるほど。

板倉 なんか、キリがないなと思って。生きる悩みがなくなるなんて、僕、あり得ないと思ってるんです。羨ましい気持ちで見ている人も、きっと僕とは別の悩みを抱えてるから。どうなったって悩みは消えない。じゃあ範囲決めるしかないんです。自分はどういう人生にしたいかって。だから「自分ルール」みたいなもの、言ってみれば「自分憲法」に背かずに生きられたら、自分的合格点やれるかなって思うようになったんですよね。そしたらなぜか「腐り芸人」とか言われ出したんですけど(笑)。

――自分憲法に従っていたら腐っていた(笑)。

板倉 自分憲法守ってただけなんですけど(笑)。

――今はSNSがあったりして、自分憲法を持ちたくても、誰かの一挙手一投足に揺らぎがちかもしれません

板倉 そうなんですよ。上手く生きていくには、ノー憲法のほうがいい人もいる。それで死ぬ前に合格点を出せるんだったら、それでいいと思います。

――板倉さんはノー憲法は嫌ですか。

板倉 嫌っていうか、せっかくだったら抵抗してみたいだけです。あまりなんも考えてない人のほうが得だなって思います。僕はいろいろ自分で自分を苦しめてるんですよ(笑)。

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