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ヤクザだって愚痴りたい! トイレットペーパーを切らして親分に激ギレされた中年極道の悲哀

本書で取材に協力してくれたヤクザのひとり
本書で取材に協力してくれたヤクザのひとり

Amazonでは先行発売中で、来週には一般書店での販売も開始される『令和ヤクザ解体新書』(サイゾー)。この作品の中で生々しくも人間臭い、これまでにないヤクザの実態を描いたのは、本書が初の著作となった佐々木拓朗氏。同氏が見るヤクザを見る角度、彼らと話す言葉は独特で“佐々木ワールド”ともいえる、ノワール的でありながらもユーモラスな世界観を築いている。ここでは、『令和ヤクザ解体新書』には未収録エピソードを掲載する。

視線を変えるとヤクザのこんな一面が見えてきた……

 ヤクザを取材し始めて間もなかった10数年前。先輩記者から言われたことがあった。

 「日常会話でヤクザ用語を使ったり、ヤクザにかぶれたりするな。自分もヤクザになった気で、ヤクザはこうだ!みたいな考えを持つな。じゃないと〇〇みたいな記者になるぞ」

 ここでは伏せるが、〇〇とは今もヤクザ記事を書いている、業界では有名なフリーライターのことである。

 「なんや、あの〇〇。まだ、△△は古いだけあってまだ読んでても面白いけど、〇〇の記事はクソやの。嫌味っぽいというか、性格の悪さが滲み出とるやないか。昔、いじめられてたってほんまかいな」

 〇〇については、組員からこのようなことを何度か聞かされたことがある。筆者も現場で〇〇と遭遇することはあったが、新人記者に対して高圧的というか、まるで自分の現場のような立ち振る舞いをするのだ。組員に対しても、相手によって態度を変えて、親分衆にだけはうまく取り繕ってみせるのである。一方で、立場が下の組員ほど、〇〇に対する評価は低かった。

 致命的なのは、ヤクザ経験もないのに、ヤクザのことを知り尽くした気で書くものだから、文章が鼻につく。組員たちが言うように、原稿そのものが皮肉の塊のようなもので、さらに決めつけたような文章が読後のモヤモヤ感を蓄積させるのだ。

 冒頭の先輩記者の忠告の影響もあったが、筆者は○○を反面教師にしてきた。他の記者とはヤクザを見る視線を変える、ということを心掛けてやってきた。同時に、ヤクザの内面に寄り添うことも意識してきた。だからこそ、彼らの本音をこっそりと聞くことができたのかもしれない。

 たとえば、こんな愚痴をこぼすヤクザもいた。

「50になって、こんなに怒られる仕事なんて……」

 「毎週毎週、当番の前日から憂鬱になるで。20年近く、懲役以外の時は週1回は当番に入ってるワシらが、いややと思うねんで。今の若いもんが、当番なんか入ったところで、もつかいな。部屋住なんて論外や」

 40代後半のTは、事務所の雑務や幹部の面倒などを任させる、いわゆる「当番」が、とにかく窮屈で仕方ないと語り続けた。労働の効率性を考えても無駄でしかないと言い切るのである。

 「当番なんて親分に怒られてに行くために、あるみたいなもんやないか。あのな、トイレットペーパーが切れてもうてるだけで、大事件やねんど」

 言っている意味がわからない。事務所のトイレットペーパーが切れているのであれば、薬局にでもスーパーにでも買いに行くなり、誰かに行かすなりすればいいだけなのではないのか。だが、Tは「何もわかっていない」とでも言いたげに軽蔑した視線を向ける。

  「そんな単純なもんとちゃうわい。切れたことが親分に知れただけで『事務所におってそんなことも気づかんのかいっ!』となってやな、『ぼけっ~としとるから、気づかんのやろがっ!』て、どんどんエンジンがかかってくるや。仮に客でも来て、トイレットペーパーがなかったなんてあってみ。『どないするんどいっ!』て、人でも殺したくらいの勢いで怒られんねんど。ワシ、もうすぐで50やど。50でそんな怒られる仕事なんて、カタギで考えてみ。あるか? そうはないやろが。事務所いうところは、なんせそんなリスクが特別に上がる場所なんや」

 Tが言うには、一事が万事、この調子。そりゃTでなくとも、週に一回のペースとはいえ、そんなところに喜んで泊まり込みにいく猛者はいないだろう。  

「それだけやないで。若いもんの飯代から何から何まで、その日の経費すべてが当番責任者の持ち出しや。そうなってくると人間おかしなもんで、感覚が麻痺してまうんや。当番から上がった時には、開放感が芽生えてきて、留置場から釈放されたような、うれしい気分になんのや。元気まで出てきてな。それでまた当番の日にちが近づいてくると、憂鬱になるねんけどな」

 基本的に事務所当番は休みなく365日、ヤクザ組織の至るところで行われている。Tが所属する組織に限らず、さまざまな事務所で、今日もまたそういった悲喜交交が展開されているのかと想像すると、少なくても筆者は「ヤクザとは、生き方だ」と軽々しく口にできないのである。

(文=佐々木拓朗)

『令和ヤクザ解体新書 極道記者が忘れえぬ28人の証言』
佐々木拓朗/定価1400円+税/amazonで発売中

現代アウトローの実像を浮き彫りにした衝撃ノンフィクション。暴対法、分裂抗争、暴力団排除、コロナ禍……「これくらい世の中が変わってくれた方が、まだ食うていける。これがワシらの実情や」。

佐々木拓朗(ライター)

アウトロー取材経験ありの元編集者のフリーライター。自身の経験や独自の取材人脈を生かした情報発信を得意とする。

ささきたくろう

最終更新:2021/08/28 09:00
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