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Mummy-Dらによるパラリンピアン・アンセム「Wonder Infinity」が熱い! 無理解と偏見に立ち向かうパラスポーツと日本のHIPHOP

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NHK東京2020パラリンピック「Wonder Infinity」より

 8月24日から開幕となった「東京2020パラリンピック」も、いよいよ9月8日に閉幕となる。障がい者たちによるスポーツ「パラスポーツ」の存在自体はパラリンピックの名のもとに有名であっても、パラリンピアンの認知度はオリンピアンと比較すると残念ながら低い。その状況に一石を投じるかのように、オリンピック閉幕後にNHKが公開したのが「Wonder Infinity」であった。世界的に有名な3人のパラリンピアンを主題にしたラップソングである。

 その状況に一石を投じるかのように、世界的に有名な3人のパラリンピアンを主題にしたラップソング「Wonder Infinity」がNHK東京2020パラリンピック応援企画の一環として公開されている。

 タイアップでラップが使われると身構えてしまうこともあるが、この曲はラップリスナーの期待を裏切らないはずだ。ケンドリック・ラマーやJ・コールらの楽曲にも参加したNY在住のアーティスト/プロデューサーであるBIG-YUKIがトラックを提供し、Mummy-D、Awich、ZORNが並ぶのだから失敗のしようがない。

 RHYMESTERのブログでMummy-Dは、この曲の人選とディレクションにも関わったと記している。ビデオは椎名林檎の作品を多く手がけた映像ディレクター、児玉裕一。この共演に至っては、2019年にMummy-Dはパラリンピックカウントダウンセレモニーで椎名林檎と開会式に使用する予定の曲を披露したので、そこから白羽の矢が立ったのだろう。そして楽曲での共演者としてAwichとZORNを起用する目利きは、ベテランなれど耳が衰えてない証拠ともいえる。

 そのMummy-Dが一番手を務めてラップをするのは、車いすフェンシングで両手足を失った初めての金メダル選手、ベアトリーチェ・ヴィオ(イタリア)について。彼女は髄膜炎により11歳で手足を失うことになるのだが、そんな悲劇をまったく感じさせないほど活発な性格をしており「Dior」のファッションモデルを務め、『Rolling Stones』誌の表紙を飾るなど、その活躍はアスリートを超えたスターだ。先日、リオに続き東京でも金メダルを獲得した。Mummy-Dはそんな彼女の紹介をするのだが、娘ほどに年齢の離れたべべに対し、敬意を表すエモーショナルなラップを聴かせてくれる。

 続いて、豊かな表現力と強い存在感から、年々その人気を不動のものにしている女性アーティスト・Awichがラップにするのは、“車いすバスケ界のマイケル・ジョーダン”ことパトリック・アンダーソン(カナダ)。パトリックは00年から12年までの間、カナダに金メダルを3枚、銀メダル1枚を持ち帰った時代の中心人物で、彼が引退してしまうとチームはリオで12チーム中11位まで落ちぶれてしまったほどだ。引退後は妻との音楽生活や育児に専念していたそうだが、現役復帰してもプレイは衰えず、冷静な言動とパワフルなプレイでチームを牽引する姿に変わりはない。

 一方で、デビューしてから常に何かと戦うようにラップを続けているAwichは、堂々と挑戦に受けて立つ絶対王者を演じさせたらシーン随一だ。品とふてぶてしさが同居して、最高にさまになっている。しかしパトリックは現役引退を「プレッシャーから逃れて無名になりたかった」と振り返るような素朴な男。強力なパートナーだったジョーイ・ジョンソンは引退してしまい、チームを支えていたデイビッド・エングは障害の再審査により選手資格を失った。結果、先日は日本との対決に敗れている。年齢から考えてこれが最後のパラにもなり得ると考えると、パトリックにおいては人生の転機になり得る挑戦ではないだろうか。つまり、Awichはパトリックを演じるようで、実は彼女であり続けたと言えよう。

 3人目のパラリンピアンは、グランドスラム車いす部門で歴代最多の計45回もの優勝記録を持つ国枝慎吾。圧倒的な記録保持者だが、デビュー後と近年の活躍の間には怪我による長いスランプも味わっている。手術をしても痛みが消えなかった国枝は、工夫と努力を重ねても無冠に終わる日々のまま現役が終わる不安を感じ続けていたという。それでも「俺は最強だ」とラケットに貼り、自信が揺らぐ瞬間は口にもするというエピソードは有名だ。トレーナーと共に鍛えたメンタルと技術で世界ランキング1位へと復活を遂げた国枝だが、車いすの改良からフォームの変化まで工夫を重ねつづける日々。「二歩前進したと思えば来週にはボツにしていることも多い」と語る様子からは、いかにトップ争いが熾烈なものかが伝わってくる。

 そんな彼のパートを任されたのがZORNだ。「(国枝選手を)死ぬほど調べた」と語るZORNのリリックには、前の2人に比べてリリックに選手の情報が多く盛り込まれている。特筆すべきはZORNが“(遠い)韻の飛距離”と呼ぶ得意技を封印している点だ。

 韻の飛距離とは、例えば彼の楽曲「No Pain No Gain feat. ANARCHY」における「痛みの作文」と「しまじろうが来る」のように、予想できない言葉を用いて韻を踏みつつ、パンチラインとしても意味を成す得意技を指す。そういった言葉遊びを犠牲にし、2拍ごとに韻を敷き詰め、極限まで無駄を削いで国枝慎吾を表現することに全神経を注いでいる。また、途中「関係ねぇのが」と堅い型を一瞬崩す瞬間はラップだからこそできる気持ち良いスタイルだが、その前後のリリックは日本語ラップにおける先輩後輩を関係なく集結させた武道館ワンマンを思い起こさせる。

 今まで交わることのなかったこのラッパー3者が、オリンピアンたちの選手紹介に並ぶこのミュージックビデオ。一見するとNHKだからこそ実現できた贅沢な企画ともいえそうだが、パラスポーツと日本語ラップが持つ”類似性”が多いという点を踏まえると、これがさらに良い組み合わせだと言えよう。

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