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MARUOSAの「かた焼きそばのフィロソフィー」第12回

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」

文=MARUOSA(マルオサ)
水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像1
(以下、写真/小嶋真理)

 シュプリームのコレクションに楽曲を提供し、海外の有名音楽フェスに出演するなど、国内外で評価されてきた“エクストリーム・ミュージシャン”のMARUOSA。他方で“かた焼きそば研究家”としての顔も持ち、近年は『マツコの知らない世界』(TBS)や『新・日本男児と中居』(日本テレビ)、『たけしのニッポンのミカタ!』(テレビ東京系)といった地上波のテレビ番組にしばしば登場して注目を集めている。そんな彼が、驚愕の絶品・珍品に光を当てながら、かた焼きそばの奥深き哲学に迫る!

 

 突如、テレビ画面に映し出されたニュース速報を見て頭が真っ白になった。

「水木しげる 死去」

 今もなおリメイクされ続け、世代を超えて愛されている『ゲゲゲの鬼太郎』をはじめ数多くの作品を世に残し、日本はおろか海外にも名を馳せる妖怪マンガの第一人者である。93歳という高齢だったが、心のどこかで「水木先生のことだから150歳くらい生き続けるんだろうな」と思っていた矢先の訃報だった。

 私の幼少期は水木しげるのマンガと共にあった。

 初めて親から買い与えられた本は『妖怪100物語』と『妖怪なんでも入門』。毎晩、枕元のお供として何度も読みふけり、扉や窓の隙間に怯えながら布団をかぶり眠っていた。ちなみに、今でも隙間を開けたまま寝るのは気味が悪くて苦手だ。

 その後、『ゲゲゲの鬼太郎』や『河童の三平』などのコミックスはもちろん、短編集や画集なども買い揃えた。

 おどろおどろしくも愛嬌のある妖怪たち、吸い込まれるような点描の背景にポツンと佇むキャラクターのバランスに酔いしれた。

「なんだかよくわからないが、心惹かれる不思議な何か」

 今でも自分の羅針盤となっているこの感覚は、水木先生によって培われたものだと思う。

 彼が亡くなる前日、私は腰まであった髪を衝動的にバッサリと切った。髪の毛には念が込もるともいわれているし、不安定な精神状態に区切りをつけるために切ったのだが、まさか翌日にこんなことになるとは夢にも思わなかった。

 なんの因果もないだろうが、当時は本気で恐怖を感じた。

 そんな私を形成した大きな存在である水木しげる。

 ご存じの方もいらっしゃるかと思うが、90歳を超えてもマクドナルドのバリューセットを完食するほどのかなりの大食漢だったのだ。そして、彼が生前よく食事をし、劇中にも登場した中華料理屋が今も営業していると知り、早速、現地に向かった。

 京王線西調布駅から約8分、調布駅からは約10分、聖地は閑静な住宅街にひっそりと佇んでいた。外から見ると店内は薄暗く、暖簾はかかっているが営業しているのかどうか判断が難しい。

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像2

 創業1964(昭和39)年の中華料理店、八幡。創業当時は木造2階建てのアパートで、ひとりの男が下宿をしていた。ある日、屋根で昼寝をしていたときに見た夢を元に描いたといわれる作品『ねじ式』がカルト的人気を得、のちに映画化。そう、つげ義春が住んでいたのだ。伝説のレイヤーがいくつも重なって、まるで神話上の建造物に見えてきた。

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像3

 おそるおそる扉を開けて着席。一応、営業はしているようだ。

 あたりを見回すと、おすすめメニューのほかに水木しげる関連の記事やサイン色紙がいくつか貼り出されている。鬼太郎と猫娘がこの店でラーメンを食べたコマも改めて確認できた(「別冊少年マガジン」1967年9月号『墓場鬼太郎』の「猫娘とねずみ男」)。

 実は、このお店のほど近くにある下石原八幡神社も聖地のひとつとして数えられており、『ゲゲゲの鬼太郎』の主要キャラクターである猫娘の住処がこの神社の軒下なのだ。 耳をすませば妖怪たちの声が聞こえてきそうな地域だ。

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像4

 ここでメニューを確認。中華料理店には珍しいチキンライスも非常に気になるが、迷わず「揚げかたやきそば」をオーダー。

 しばし待っていると、店主自ら配膳、その量に思わずのけ反った。

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像5

 丼というか、ちょっとした湯桶くらいあるではないか。ちなみに、この写真では判別できないが、丼の深さは10センチくらいある。

「うちはどのメニューも量が多いんだよぉ」と笑顔の店主。

 特にデカ盛りで売り出しているお店ではないはずだが……まさかこれほどまでとは。20代の頃であれば、きっと軽く平らげることができただろう。しかし、今や40過ぎのデスクワーク胃袋。戦いを前に五臓六腑が恐れをなしている。

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像6

 具材を確認して日和った気持ちを整える。

 野菜はタケノコ、もやし、ニラ、ニンジン、キャベツ、キクラゲ、タマネギ。肉は豚コマを使用し、塩ベースにほのかなごま油の香りを感じるあんかけ。麺は見事なくらいにストレートな中細揚げ麺。ほぐしてみると、なかなかの強度。これは厳しい戦いになりそうだ。

水木しげるが傑作マンガ誕生の糧にした湯桶サイズの「揚げかたやきそば」の画像7 いざ食べ進めてみて感じたが、中盤になっても意外と箸が止まらない。あんかけの味が比較的あっさりしていることが最大の要因だろう。

 とはいえ、デカ盛りにカテゴライズされる量。顔を埋めるかのごとくかた焼きそばに向き合い、脳内にリフレインするのは『TVチャンピオン』の大食いBGM。

 脳内BGMと優しい味のおかげで、無事完食。

 メニューの表紙に書かれていた「初めてなのになつかしい味」。その言葉通りに身も心も温かく、しかも胃袋大満足の一品だった。

 水木先生もきっとモリモリ食べて、傑作を生み出すエネルギーに変えていたに違いない。
 最後に水木先生が遺した「幸福の七カ条」で締めることとしよう。

第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 怠け者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。

<INFO>
・中華料理 八幡
住所:東京都調布市富士見町2-4-1-201営業時間:11:30~15:00
定休日:火曜
Twitter:@chukahachiman

<連載「かた焼きそばのフィロソフィー」の過去回>
第1回:「海老天ベンツも潜む圧倒的な情報量の“揚げ日本そば”スタイル」
第2回:「中野坂上にも“夢と魔法の王国”があった! 豚レバーとピリ辛餡が刺激的な『ミッキー』のかた焼きそば」
第3回:「椎茸・ザ ・ボンバーの一点突破! “映え”だけじゃない極端かた焼きそばの滋味と享楽」
第4回:「インド、アメリカ、中国が同盟を結んだ! フォークで食べる常識破りのジャンクかた焼きそば」
第5回:「創業90年の町中華で味わう極上“アンビエント”かた焼きそばの宇宙と無常観」
第6回:「まるでかた焼きそばのサラダ! 立川で100年以上続く福来軒の懐かしくて新しい逸品」
第7回:「エキゾチックなタイ版かた焼きそば“あんかけのスコール”で微笑みがあふれ出す!」
第8回:「“かた焼きそば名門校”出身の料理人による天衣無縫のあんかけと病みつき揚げ麺」
第9回:「羽生善治九段の勝利にも貢献した“将棋めし”聖地が『かた焼き祭り』を開催!」
第10回:「人生につまずいたときに優しく迎えてくれる中目黒の王道かた焼きそば」
第11回:「ベトナムと日本をつなぐ『あんかけ揚げめんフォー』のワンダーランド」

MARUOSA(マルオサ)

MARUOSA(マルオサ)

1980年、大阪生まれ、東京在住。エクストリーム・ミュージシャンとして、これまでに20カ国以上でライブを行い、世界3大メディア・アート・フェスのひとつ「ソナー」(スペイン)、約28万人も訪れる欧州最大級の「ロスキレ・フェススティバル」(デンマーク)、世界最大の音楽見本市「SXSW」(アメリカ)などに出演。かた焼きそば研究家としてテレビ・ラジオ出演やコラム執筆といった活動も行う。

Twitter:@maruosa

【maruosa.com】

最終更新:2021/12/15 12:00

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