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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.680

SNS上での評価が人生を大きく左右する? 美談の男が詐欺師に転落『英雄の証明』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

SNS上での評価が人生を大きく左右する? 美談の男が詐欺師に転落『英雄の証明』の画像1
拾った金貨を持ち主に返したラヒム父子は「美談の英雄」とメディアに持ち上げられる

 SNSに投稿した自分のコメントに多くの「いいね」が集まると、気分が高揚する。逆にスルーされてしまうと、ヘコんでしまう。投稿するコメントの言い回しや画像を、注目が集まりやすいよう工夫するようになる。SNS上のリアクションは、実生活にも確実に影響を与えるようになってきた。そんなSNS文化は、欧米や日本だけでなく中東圏にも浸透している。イラン映画『英雄の証明』は、ひとりの男性がSNS上の評判によって刑務所送りになるかどうかの瀬戸際に立たされるという、シリアスな社会派ドラマだ。

 本作を撮ったのは、イラン出身のアスガー・ファルハディ監督。保守的なイスラム文化と近代化の波との狭間で揺れ動くイラン人夫婦を主人公にした『別離』(12)と『セールスマン』(16)で、米国アカデミー賞外国語映画賞を2度受賞している。新時代のイラン映画を代表する名監督だ。SNSを題材にした本作でも、善人か悪人かのグレーゾーンで右往左往する現代人の姿を鋭く描いている。

 バツイチ男のラヒム(アミル・ジャディディ)は、前妻の兄から借りたお金を返済することができず、刑務所に収容されていた。2日間の一時帰宅を許されたラヒムは、ひとり息子を預かってくれている姉夫婦宅へと向かう。ようやく借金が返済できそうで、ラヒムは上機嫌だった。恋人のファルコンデ(サハル・ゴルデュースト)が金貨の入ったカバンを拾い、ラヒムの借金返済に充てようと言ってくれているのだ。借金を返せば、刑務所に戻らずに済み、ファルコンデと結婚でき、息子とも一緒に暮らせる。拾った金貨を神さまからの贈り物のように感じるラヒムだった。

 だが、金貨を現金に換算しても、借金は全額返済できないことが分かる。刑務所に戻ることになったラヒムは、あるアイデアを思いつく。拾った金貨は持ち主にちゃんと返そうと。ラヒムの考えたとおり、金貨を拾ったことを知らせる張り紙をしたところ、持ち主の主婦がこっそり現れた。夫に内緒で貯めたヘソクリだそうだ。この一件は大きな反響を呼ぶ。テレビや新聞は「借金苦で刑務所にいながら、金貨を持ち主に返した正直者」と褒め称えた。刑務所の所長もこの美談に飛びつき、ラヒムは瞬く間に人気者となっていく。

 チャリティー団体がラヒムを表彰することになり、彼を刑務所から救い出すための募金が集められる。表彰式に出席するラヒムは刑務所の所長から特別休暇を与えられ、出所後の就職先も決まりそうだった。だが、ラヒムが有名になる一方で、「この美談はやらせだ」という噂がSNS上で流れ始める。

 ラヒムは果たして正直者なのか、それとも悪質なペテン師なのか。黒澤明監督の法廷時代劇『羅生門』(50)のように、見方次第によってラヒムの人物像は大きく変わっていくことになる。

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