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深田晃司監督インタビュー

深田晃司監督が映画界のハラスメント構造を解く 権威者のいる業界ほどセクハラの温床に

自分が当たり前だと思っていた世界は、当たり前ではなかった

深田晃司監督が映画界のハラスメント構造を解く 権威者のいる業界ほどセクハラの温床にの画像3
会見で映画界のジェンダーバランスの不均等さを語る深田監督

――深田監督はコロナ禍において、濱口竜介監督らと「ミニシアター・エイド」を立ち上げ、2012年にはNPO法人「映画独立鍋」も設立しています。映画制作だけでも多忙な深田監督が、映画業界の改善に積極的に関わるようになった理由を教えてください。

深田 20代の頃、映画スタッフとして働いていたんですが、本当に過酷な現場だったんです。30時間以上ずっと作業が続く徹夜労働、それに加えて、殴る蹴るといった行為が常習化している現場でした。最初の現場は照明助手として入って、次の現場は美術スタッフとして参加したんですが、今から思えばどちらも現場がハードなことで知られる監督の映画で、一歩め二歩めから大変なところを引き当てたものだと思います(苦笑)。でも、その頃はおかしいとは思わなかったんです。自分の好きなことをやっているんだから、自分も仕事ができないんだから、つらい目に遭うのも仕方ないと考えていました。それで、自分はスタッフには向いてないと思い、自費で自主映画を撮るようになったんです。

――ひどい目に遭っても、自分がいる環境の異常さに自分では気づくことができない。

深田 そういうことですね。どんな大変な経験でも、それを無駄ではなく、自分にとって意味あるものと思い込もうとするバイアスも働くのだと思います。その後、フランスで現代美術家として活躍していた藤井光さんとアルバイト先で知り合い、交流するようになり、お互いの作品づくりを手伝うようになりました。そうした中で、フランスの文化政策について教えてもらい、フランスの映画スタッフや俳優は仕事がない間は失業手当が出るなどを知って驚きました(笑)。自分が当たり前だと思っていた世界は、当たり前ではなかったわけです。海外の映画祭に参加する機会も増え、各国の映画人たちとも話すようになり、フランスや韓国の映画界は助成金が多く、制度も整っていることが分かったんです。でも、それは自然とできた制度ではなく、彼らが積極的に発言し、望み、行動に移したから実現したものなんです。フランスには「CNC(国立映画・映像センター)」という機関があり、映画界全体の収益の一部をプールし、映画振興のために使う仕組みになっています。韓国映画界にも「KOFIC(韓国映画振興委員会)」という似たような組織があり、2000年代以降の韓国映画の興隆の原動力となっています。今、日本でも「日本版CNC設立を求める会」という運動が立ち上がり、自分もそこに参加しています。

――深田監督は「ジェンバーバランス白書」で、自分の履いてきた「下駄の高さ」を知るべきだとも語っています。

深田 私自身が男性であることで優遇されてきた部分は、絶対あるはずだと思っています。また、映画賞や審査員のジェンダーバランスを調べるのだから、自分の作品のスタッフの内訳は知っておかなくてはと思って調べました。やはり、女性スタッフの比率は28%に過ぎず、決定権を持つポジションに就いている女性スタッフはさらに少数でした。また、繰り返しになりますが、プロデューサーについても同様で、女性プロデューサーとも仕事をしているのですが、製作会社の幹事や決定権を持つポジションはやはり100%男性です。先ほど自主映画を撮るようになったと話しましたが、自分が監督として怒鳴ったり、暴力を振るうことはしていないつもりですが、とはいえ、余裕のある現場を準備できてきたとも思っていません。ある有名な監督がインタビューで「3日間連続徹夜で撮影して見えてくるものがある」と、冗談混じりに語っていたのを読んだことがあります。日本映画界ではそんな過酷な労働が一種の美徳のように語られてきましたが、そこは当然変えていかないといけない。日本でもさすがに「いい映画のために犯罪を犯してはいけない」という言葉に反対する人は今はいないと思いますが、例えば欧米ではそれと同じぐらい「いい映画を撮るために、スタッフの睡眠時間を奪ってはいけない」「いい映画を撮るためには、スタッフの自由な時間を奪ってはいけない」という考えが浸透していると感じます。(3/4 P4はこちら

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