日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 映画界のハラスメント構造を解く
深田晃司監督インタビュー

深田晃司監督が映画界のハラスメント構造を解く 権威者のいる業界ほどセクハラの温床に

「ハラスメント0」を目指すことの危険性

深田晃司監督が映画界のハラスメント構造を解く 権威者のいる業界ほどセクハラの温床にの画像4
厚生労働省で開かれた「表現の現場調査団」による記者会見

――徹夜作業は作品のクオリティの低下を招くだけでなく、車両事故などにも繋がりかねません。余裕のあるスケジュールを組むことのできるだけの予算があるのがベストだと思いますが、工夫次第で現場を変えることは可能でしょうか。

深田 フランスではアート系の作品でも1.5~3億円くらいの予算が付くので、余裕のあるスケジュールを組めますが、日本では難しい。結局のところ、監督の覚悟も大きいですね。監督が「OK!」とひと言いえば、徹夜せずに済むケースも多いわけです。良心的なプロデューサーほど、監督の好きなように撮らせてくれて、監督もそれに甘える。また、もともと無茶なスケジュールが組まれていたりもして、ズルズルと夜遅くまで撮影が続くことになってしまう。監督の責任は重いです。

――新作『LOVE LIFE』から、「ハラスメント講習会」を撮影前に開くようにしたと聞いています。効果はありましたか?

深田 よく「リスペクト・トレーニング」とも言われていますが、「リスペクト・トレーニング」はNetflixが作った独自のプログラムなので、一般的には「ハラスメント講習会」という呼び名でいいかと思います。1時間程度の講習への参加をスタッフ、キャスト全員に呼びかけました。韓国ではKOFICが講習会の実費を負担しているのですが、日本にはないので今回は製作委員会からお金を出してもらいました。どのくらいの効果があったかは正確には分かりませんが、大きな声を出しがちなスタッフが今回の現場ではかなり抑えてくれていたそうで、ある程度の抑止力効果はあったようです。講習を担当してくれた先生に、撮影中に何かハラスメントなどの問題があった際の相談窓口にもなっていただきましが、今回は相談はなかったそうです。ただ、だからハラスメントがなかったと言い切れるものではなく、そもそも窓口の存在が相談先として十分に認知され、活用されていたのかどうかも考えないといけません。

――深田監督自身が「ハラスメント講習」を受けて、気づいたことはありますか?

深田 自分自身を「加害を犯さない」と安全圏においてはいけない、ということでしょうか。また、「ハラスメント0」を目指すのはいいですし、できるだけの未然の防止策を講じなくてはいけませんが、いろんな価値観を持った不完全な人間が現場には集まるわけですから、トラブルや加害、被害は起きてしまうことを前提に、そのときにどう対応できるかが求められます。「ハラスメント0」という標語のみがひとり歩きすると、「原発事故ゼロ」の安全神話と一緒で、加害や被害そのものから目を背けることにもなりかねません。

――フリーランスのスタッフが多いというのも、映画業界の特性だと思います。仕事を干されることを懸念して、トラブルが起きても報告しないフリーランサーもいるのではないでしょうか。

深田 やはり、みな不安定な立場で働いているので、被害を受けても告発のハードルは高いですよね。被害相談者が不利益を被らないためにはどうすればよいのか、いまだに自分も答えが見えていません。撮影現場もそうですが、ここ数年、ハラスメント被害が原因で映画館を退職した方の大半が映画業界に戻れていない実情は忸怩たるものがあります。また、企業に勤めていれば、「ハラスメント講習」を受ける機会が恒常的にありますが、フリーランスだとなかなかそうはいかず、またハラスメント加害行為者、いわゆるハラッサーに対する研修や教育も、企業のように担当者を決め、数カ月から1年以上かけて行うようなことは現状難しい。自分を含め、作品ごとにバラバラに集まるフリーランスの映画関係者のリテラシーをどう高めていくか、業界にとって今後の大きな課題です。

――お忙しいところ、ありがとうございました。次回は深田作品について取材させてください。

深田 ぜひお願いします。

 

深田晃司(ふかだ・こうじ)
1980年東京都小金井市生まれ。映画美学校修了後、2005年に平田オリザ主宰の劇団「青年団」に演出部として入団。2010年、監督・脚本作『歓待』が東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞を受賞し、注目を集める。2013年、二階堂ふみ主演作『ほとりの朔子』がナント三大大陸映画祭グランプリを受賞。2016年、浅野忠信主演作『淵に立つ』はカンヌ映画祭「ある視点」部門審査委員賞を受賞。以降、『海を駆ける』(18)、『よこがお』(19)、『本気のしるし 劇場版』(20)と新作を次々と発表。今年のベネチア映画祭に出品された木村文乃主演の最新作『LOVE LIFE』は9月9日より劇場公開中。

最終更新:2022/10/19 19:00
1234
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

水原解雇に間に合わなかった週刊誌スクープ

今週の注目記事・1「水原一平“賭博解雇”『疑...…
写真
イチオシ記事

さや香、今年の『M-1』への出場を示唆

 21日、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「賞レース2本目やっちまった芸人」の完結編が放送された。この企画は、『M-1グランプリ』(同)、『キ...…
写真