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白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授「勘違いの地方創生」特別編

茨城県結城市で街を利用した音楽フェス「結いのおと」を成功せた“実行力”

茨城県結城市で街を利用した音楽フェス「結いのおと」を成功せた実行力の画像1
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 新型コロナもひとつ一段落し、今年はリアルでのイベントが盛り上がりをみせている。特に人々が待ち焦がれていたのが、音楽フェスだ。日本でフェス文化が一般化してはや20年以上の月日が経った。かつては、大きな音楽プロモーターたちの手によるものばかりであったが現在では、全国各地さまざまな主催者が運営をしている。

 そうした中で茨城県結城市では、街の施設を利用した回遊型音楽フェス「結いのおと」がひとつ象徴的な企画として根付いている。これまでも、サニーデイ・サービスや堀込泰行、鎮座ドープネスなどのアーティストが出演してきた。

 今回は、「白鴎大学ビジネス開発研究所長・小笠原教授『勘違いの地方創生』」の特別編として小笠原教授にはオブザーバーとして参加してもらい、結城市の商工会議所の職員で、フェスの実行委員会である「結いプロジェクト」の野口 純一氏へのインタビューを実施。

 一見するとありそうで、実はなかなかないこの『地方創生』×『音楽フェス』の、運営について話を聞いた。

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――4月22~23日に茨城県結城市で音楽フェス「結いのおと(https://www.yuinote.jp)」が開催されます。2014年に始まり、コロナ禍以前の2018年には来場者数が2日間で2000人と、県外からも多くの人が集まるイベントとして地方創生の文脈でも注目を集めるものに成長しています。このイベントの特徴を簡単に説明いただけますか?

野口 結城市は茨城県の南西に位置する人口5万人程度の小さな市です。結城紬で知られる着物の街で、結城家という18代続いたお殿様の城下町でもあるので、歴史と文化が今でも息づいているんですね。「結いのおと」はそうした地域資源をフル活用して、寺社仏閣や酒蔵、結城紬の産地問屋の古民家など街中の建物をステージにミュージシャンの方々がライブをする回遊型のフェスです。生活空間・公共空間の中で行われているのが大きな特徴だと考えています。

――フジロックやライジングサンロックフェスティバルに代表される大型フェスはいずれも、イベントプロモーターが主催しています。「結いのおと」オーガナイザーの野口さんは、結城市の商工会議所の職員だそうですね。なぜ、こうしたイベントを手掛けることになったんでしょう。

野口 結城所の商工会議所の中には、市役所と商工会と地元の商店が出資してつくった第三セクターのまちづくり会社・TMO結城という組織があるんですね。私が商工会議所で働きだして最初にTMO結城の担当になったとき、新しい企画をやろうということで「結いプロジェクト( https://yuiproject.jimdo.com )」というクリエイティブチームをつくったんです。

 ここが中心になって、2010年に「結い市」というマルシェイベントを始めました。そのイベントのコンテンツのひとつに音楽があり、2014年からこれを独立させて「結いのおと」がスタートしたという流れです。

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――出演者のラインナップが毎年かなり豪華ですよね。今年でいえば水曜日のカンパネラ、chelmico、STUTS、青葉市子、Special Others、THA BLUE HERBなど、音楽好きから熱い支持を集めるミュージシャンばかりです。

野口 ありがたいことに、そうですね。当初はスタッフみんなで打ち合わせしたり投票制で決めたりいろいろ試してみたのですが、どうしても個人の趣味がバラバラなのでどこか雑多になってしまって、途中から私が1人で決めるようになりました。独断と偏見ですね(笑)。

――プロモーターを通さずにブッキングしているのですか?

野口 はい。プロモーターにお願いすると当然お金がかかるので、これは節約の部分も大きいです。それと、ほかにないスタイルのイベントなので、アーティストの方も面白がってくれて「また出たい」と言っていただけるんですよ。今年は27組出るのですが、そのうち20組が以前にも出ていただいた方たちです。さらにそういう方々がほかのところで「『結のおと』よかったよ」と言ってくださるのを聞いて「私も出てみたい」と言ってくれるアーティストさんもいて。そうやって次につながっていくのは本当にうれしいです。

外からやってきた人と地元との軋轢はどう解消した?

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――前提として、野口さんは地元のご出身ではないのですよね?

野口 隣の古河市の出身で、大学を出てからは東京のアパレルで5年ほど働いていました。なので結城市のことは全然知らず、大洗に行くときに通過する街というイメージでしたね。その後、アパレルを辞めて地元に帰る決断をしたときに、ちょうど結城市の商工会議所の募集が出ていたので、そこで拾ってもらって今に至るという感じで。

 もともと父が古河市の商工会議所の職員だったのです。子どもの頃に近所のお店のおじさんから「お父さんにはいつもお世話になっているよ」とよく言われたり、確定申告の手伝いで感謝されていたり、地域に溶け込んで感謝される仕事というイメージがありました。

――働き出した頃、街はどんな様子だったんでしょうか。

野口 やはりどこの地方とも一緒で、結城市も旧市街地の高齢化が進んでシャッター街になっていました。しかもお店は閉めても持ち主の方が引き続き居住しているので、別の誰かに明け渡すことはできない。シャッターは閉まっているけれど空き店舗ではないという状態になっていたんですね。そこで「まずはコミュニティをつくるところから始めよう」と考えました。持ち主の方たちに「1日だけでいいから開けてくれ」と頼んで、お店をやりたい人やクラフト系の作家さんを募って私たち商工会議所がその二者をつないでイベントをしよう、と。

――さきほど話にあった「結い市」ですね。

野口 いわゆるマルシェイベントというとテントが並んだ広場をお客さんが歩いて回るイメージだと思いますが、「結い市」では神社エリアや街中エリア、酒造エリア、問屋街エリアというふうに街をゾーニングして、空き店舗や象徴的な建物を利用して約100組の作家さんが出展します。さらにその一環として、健田須賀神社という街の中心にある神社でライブペインティングや音楽ライブを行っていました。そこでアーティストの方をお招きしていたことから音楽関係の接点が広がったのは「結いのおと」開催に至ったひとつの理由です。

――マルシェイベントの出展者は地元の方が中心ですか?

野口 いえ、外からの方が多いです。イベント自体、外側に向けたものにすることを最初から意識していました。内側の人だけでやってしまうと結局“おらが町のイベント”で終わってしまって、閉鎖的なまま何も進展しないんですね。だからまずは外の人に来てもらって結城を知ってもらって、そこから結城の人たちにも「今はこういうものが良いと思われてるんだ」と思ってもらって新しい価値観を共有していこうと考えていました。

――地方創生においては、外からやってきた人と地元の方の軋轢の解消が常に課題になると思います。外から人がたくさん来るイベントを開催するにあたって、どうやって地元の方の理解を得ていったんでしょうか。

野口 そこで肝になったのはやはり運営メンバーだと思います。私のような商工会議所の人間だったり、TMO結城が運営しているコミュニティスペース「yuinowa」に集うメンバーだったり、地元の方が安心感を抱いてくれる者が間に入っていることが重要なのかなと。やはり高齢者の方は音楽フェスやアーティストなんて知らないし、価値観も違います。でもそこで何か不安が生じたときに誰に言えば解決するのかわかっていれば、「よくわかんないけど協力するよ」と言ってくれようになるんですよね。

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――とはいえ、街中で音楽イベントとなると、どうしても騒音の問題はありますよね。そこはどう対処されたんですか?

野口 そこでもやはり不安や不満の解消がポイントだと思います。ひとつエピソードを挙げると、以前に紬問屋でライブをやっていたら「うるさい」と会場に電話がかかってきたんですね。最終的に自分が直接その方と電話で話して「急いで対処します。次のステージのときにまだうるさかったらまた電話してください」とお伝えしました。翌日もイベントがあったので「また明日もあります」と念のため連絡をしたときに、すぐに対応したこととコミュニケーションをとれたことで安心してくれたのか、わりと理解していただいた感触がありました。

それでもその一件がずっと頭に残っていたので、翌年に思い切って「今年はぜひいらしてください」とチケットを贈ったんです。そうしたら、当日にその方が花束を持って来てくれたんですよ。「呼んでもらえて嬉しい」と言って。

――めちゃくちゃいい話ですね!

野口 僕らも嬉しかったです。「うるさいことを言ってくる人だ」と蓋をしてしまわず、臆せず面と向かってコミュニケーションをとることの大切さをあらためて感じました。日頃から、地元の方にも当事者意識を持ってもらえるようなコミュニケーションのとり方は意識しています。みなさんに協力していただいているからやれていることなので、それをしっかり口に出して伝えていこう、と。そうやって積み重ねてきた信頼関係が何よりの武器だと思っています。

――逆に、お客さんとして外からはどんな人が来ているんですか?

野口 アンテナが高くてサブカルチャーに興味がある方が多いです。だからこそ街の文化にも関心を持ってくれる人が非常に多いですね。

「結いのおと」は地域の人々の生活空間、公共空間でやっています。酒蔵やお寺などの場所を本来の用途とは違う使い方をすることでいわゆるユニークベニューが生まれます。そこを巡っていく中で「音楽も良かったけど、結城の街って面白いね」という印象を持って帰ってもらえる。これは本当に唯一無二なんじゃないかと思っています。手前味噌ですが、結果として地元の方からも外の方からも「なんかクリエイティブな街だな、面白いことができそう」と期待値が高まったのを感じます。

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