漫画『カマす!Tina無双』実力派ソウルシンガーとファンクマンガ家のILLな一喜一憂

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写真=TAKUYA INOUE(以下、同じ)

 昨年の「ナイテナイデ feat. ¥ellow Bucks」に続き、ワーナーミュージックUK傘下のレーベル〈Parlophone〉と契約を結んだばかりのフィメール・ラッパー、MFSをフィーチャーした「Deja’ve」をリリースしたTina。世代を超えた共演はすでに巷で話題となっているが、一部のファンク/ソウルファンの間で過熱しているのが、同作のプロモーションツールの一環になっている「カマす!Tina無双」なる4コママンガだ。そのドープな画力とオチを担当するのは、ファンク/ソウルを題材にするマンガ家のファッキンJAY。ここではそんな2人のイルでインテリジェンスな対談をカマしてもらうことにした。

――まず、「Deja’ve feat. MFS」制作の経緯から教えてください。

Tina 前作「ナイテナイデ」をリリースしたときには出来上がっていた曲なんですね。仮歌に「待ってとかナシ!ルールはアタシ!」という歌詞があったんですけど、「自分の人生の主役は自分」をテーマに、自分以外の誰かの人生のワンシーンとも重なるようなシチュエーションの物語を描くイメージで書きました。曲が完成したときは私ひとりのみの楽曲だったのですが、ラッパーの方に参加していただき、私とは違う視点から世界観がプラスされることによって、よりシチュエーションの情景が膨らむと思って。楽曲の内容的に男性よりも女性のイメージが強かったので、MFSさんの凛としたスタイルがピッタリだなと思い、お声がけした形です。タフで強い女性像と、その裏側にあるチャーミングさも表現できたらと思っていたので、そこもMFSさんのイメージと重なって。

――SNSでのプロモーションが当たり前となった今、楽曲のリリースの際にアーティスト自身やレーベルによっていろいろな施策が練られていますが、今回の「Deja’ve」ではファッキンJAYさんによるマンガ「カマす!Tina無双」が展開されています。

Tina もともとツイッターでJAYさんのマンガを目にしていて、ずっと気になっていたんです。その中でもディアンジェロが中華料理「ディアンジェ楼」の店主を務めるているマンガがあって、彼はなかなかアルバムをリリースしないことでも知られているんですけど、そのディアンジェ楼の店主も、お客さんが来ても「休みだよ」と言うだけでお店をオープンしないんですよ(笑)。そういったアーティストの人物像や、みんなが抱くイメージを4コママンガの世界観に落とし込まれていて素晴らしいなと思って。そんなときに、TinaのロゴデザインをしてくださったクリエイターのPanzoさんという方がいるんですけど、彼に「ファッキンJAYさんって知ってます?」って聞いたら、「めちゃくちゃ知ってますよ」と。「JAYさんのマンガ最高だよね!」と伝えたら、「キャラクターを描いてもらったら面白いですよ!」という流れになりまして。それが1年くらい前になるのかな。

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ファッキンJAY(以下、JAY) 去年の2月くらいに右肘を骨折していたんですが、そのときにTinaさんからツイッターで「大丈夫ですか? お大事にしてください!」というDMが届いたんです。「え、あのシンガーのTinaだよな……?」と思いましたよね、会ったことがなかったので(笑)。それがきっかけでTinaさんのライブを見に行くことにしまして、そこで生Tinaを拝見してあいさつをかましました。するとTinaさんから「いま一番お会いしたかった人です!」と告げられまして、DM同様に愛深き方だなと感じました。

Tina もう会いたくて会いたくて仕方なかった方だったのと、マンガやイラストを描かれているお仕事で腕を骨折されたなんてと思って(笑)。私はILLでINTELLIGENCEな人が大好きで、そんなイメージをJAYさんの作品から抱いていたので、中身がどんな人なのか知りたくなっちゃったんです。実際にお会いしてみて印象はイメージ通りでした。

もう一度ジェームス・ブラウンから聴いた男

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――JAYさんを初めて知る方も多いかと思うので、どんなキャリアを築かれてきたかお聞きします。

JAY もともとヒップホップが好き! というわけではなく、若い頃は安室奈美恵とL’Arc-en-Cielしか聴いていなかったレベルなんですが、2000年以降に友達からヒップホップを布教され、そこでキングギドラと出会ったことがきっかけでハマるようになりました。大学卒業後は地方のメーカーに普通に就職したんですが2~3年後に諸事情でクビになり、リーマン・ショックの真っ只中に東京で再就職先を探していました。2010年くらいに、先ほどTinaさんが話されていたPanzoさんと出会い、Tシャツのイラストを描かせてもらったり、DJ KOCO a.k.a. SHIMOKITAさんのミックスCDのアートワークの依頼をいただいたり、その頃からマンガも描いていたので、クラブのフライヤー置き場に紛れ込ませたりしていました。

――そこからJAYさんの代名詞とも言える、故ジェームス・ブラウンに敬意を表したパロディマンガ「ファンキー社長」が誕生したきっかけというのは?

JAY ヒップホップのサンプリングという技術に興味を持ち、そこから元ネタ経由でファンク/ソウルにハマったのがきっかけです。プラス、Kダブシャインさんの「も一度James Brownから聴け」(キングギドラ「公開処刑」のリリック)からも影響を受けました。それまでのクラブでフライヤーを紛れ込ませるスタイルをやめてツイッターにアップしたところ、ジェームス・ブラウン・マニアの方々やPanzoさんから「面白い」と言っていただけたことで、描き続けることができました。ジェームス・ブラウンのエピソードだけで80本ほど4コマを描いたと思います。

Tina ジェームス・ブラウンの生まれ故郷でご親族と会われたんじゃなかったでしたっけ?

JAY 正確には渡米したときに親族には会ってないんですが、オリジナル・ジェームス・ブラウン・バンドがビルボードライブで来日公演をしたときに、ジェームス・ブラウンの育った街・ジョージア州オーガスタに住んでいるバンドメンバーを紹介してもらう機会に恵まれたんですね。そのメンバーの人から「JBツアーに連れていってやるぜ!」と言われ、聖地巡礼もかねてオーガスタに行ったんです。でも、会う約束をしていた日に「あ、俺いまフロリダにいるから2日後に会おうぜ」と言われ、ひとりでJBツアーをしました。

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Tina そういうところに惹かれちゃう!(笑) JAYさんのILLさ加減と言いますか、DOPEな生き様がマンガの端々から感じるし、その独特の世界観を「Deja’ve」をリリースしたタイミングでマンガにしていただけたらと思っていたのですが……厚かましいお願いだし、正直言い出しづらくって。

JAY そのタイミングで一席設けていただく機会があって、そこでTinaさんのヒストリーやいろんなエピソードを聞かせてもらい、「あ、これは僕が普段描いているマンガの内容とも相性がいい」と思えたんです。でも、4コマのオチをちゃんと作れるかどうかは不安だったんですが……(笑)。

――「私ってこんな顔してる!?」や「私はこんなこと言わない!」といったようなリスクを背負ったわけですね。

Tina そんなこと言ってないですからね!(笑) むしろ私の雑談を6本のマンガに落とし込んでくださって、本当にありがたくうれしかったです。タイトルにある「カマす」や「無双」という言葉も雑談のときに出た言葉で、それをJAYさんが拾い上げてくださって。

JAY 「怒られるんじゃないか……もっとかわいく描けとか言われるんじゃないか」とか思っていたんですが、とても喜んでいただけて、もう1本描きたいくらいでした(笑)。

Tina 絵の雰囲気も含めて、マンガの内容は私という人物像がよく出ているなと感じているんです。歌詞を書く場合、限られた小節数や音数の中で端的にメッセージを込めるわけですが、4小節や8小節となると、よりシンプルに伝えるべき言葉を考えなければいけなくて、そこにはスキルが必要とされると思うんですね。でも、JAYさんの場合は、それを4コマでまとめあげているわけですから、本当に素晴らしいなって。

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ファッキンJAY氏による「サイゾーの取材は怖そう」というイメージ描き下ろし

――先ほどのディアンジェロの中華料理屋然り、「ファンキー社長」然り、JAYさんのマンガは単なるパロディ、ネタにしているだけでなく、バックグラウンドやキャリアを熟知した上でのリスペクトが見え隠れしているわけで、それは「カマす!Tina無双」でも表れていますよね。

JAY そこが僕自身のがんばりポイントだと思っています。今回、Tinaさんとお仕事させていただくことで、より明確になった気がします。

Tina もうそれはJAYさんの音楽愛ですからね。6本のマンガの中に、私とMFSさんがレディース「泥邪舞(デジャヴ)」に扮する作品があるんですけど、私の特攻服の袖には「待ってとかナシ!ルールはアタシ!」って歌詞のワンフレーズが描かれているんです。そういった細かいところにも心遣いがあって、もうホント宝物です。曲はもちろんですが、いろんな方にJAYさんのマンガもぜひ読んでいただきたいです!

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[プロフィール]

Tina(てぃな)
1999年にシングル「I’ll be there」でメジャーデビュー。同年発売の1stアルバム『Colorado』はオリコン初登場1位を獲得。03年以降、活動の拠点を海外に移し、伝説のイベント「Black Lily」に東洋人初のシンガーとして出演する。現在は活動の拠点を日本に移し、ソロ活動はもちろん、MACKA-CHINとSUIKENのユニット〈MONTIEN〉としても精力的に活動している。
Twitter〈@tinaladysoul
Instagram〈tinaladysoul

ファッキンJAY(ふぁっきん・じぇい)
ファンクマンガ家/ライター。ソウルの帝王であるジェームス・ブラウンをサンプリングしたマンガ『ファンキー社長』で広く知られ、ヒップホップやファンク、R&Bを題材とした4コママンガをウェブで公開している。『漫画アクション』(双葉社)では「ファッキンJAYのマイルドスタイル」を連載中。
Twitter〈@f__kinJay
Instagram〈funkinjay_japan

佐藤公郎(月刊サイゾー編集部)

『GROOVE』『LUIRE』(共にリットーミュージック)、『blast』(シンコーミュージック)、『FLOOR net』(FACTRY)などの音楽誌の編集を経て、現在は『月刊サイゾー』編集部勤務。主に音楽企画を担当。昨年末からスタートした音楽ライター・小林雅明/渡辺志保両氏がパーソナリティを務めるポッドキャスト〈サイゾー:Talk About Hip Hop〉の制作も担当。

Twitter:@56dtp

さとうこうろう

最終更新:2023/08/09 12:00
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