『チャンスの時間』恒例の「カミングアウト漫才」令和ロマンにブラマヨの面影を見る
#チャンスの時間 #令和ロマン
7日に公開された『チャンスの時間』(ABEMA)は恒例の「新春カミングアウト漫才」。漫才の本ネタ中に相方に言っていないカミングアウトをするという企画で、今年はダイタク、マユリカ、令和ロマン、マシンガンズ、ギャロップがエントリーした。
昨年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の開催期間中に収録されたという今回、5組の中では優勝した令和ロマン、ファイナル4位となったマユリカ、敗者復活戦に回ったダイタクが『M-1』に参加していたが、収録時点でまだ結果は出ていない。また、ギャロップとマシンガンズは昨年初開催された芸歴16年以上の漫才コンテスト『THE SECOND』(フジテレビ系)で優勝と準優勝のコンビである。ABEMAとはいえ千鳥がMCを務め、6年目を迎える長寿番組だけに、豪華なラインナップがそろった。
人気漫才師たちが暴露するカミングアウトの内容ばかりに注目が集まるこの企画だが、実はそれぞれの漫才の本ネタにどんな形でカミングアウトを織り込むか、その結果として漫才のスタイルにどんな変化が現れるかも見どころのひとつになっている。
今回は特に、若手3組のカミングアウト漫才について考えてみた。ベテラン2組はまあ、どうにでもやるでしょ、という話である。
トップバッターのダイタクは芸人仲間から「漫才が上手すぎて双子である必要がない」と言われるほどの双子漫才師。定番の「電車」ネタから入り、大は拓に隠れて親への仕送りをやめていること、積立NISAを始めたこと、顔が似ているのをいいことに拓のフリをして女の子と一夜を共にしたことを告白。一方の拓は、大が奥多摩のプライベートキャンプ場で男女入り乱れての「全裸キャンプ」を行っていることを暴露した。
もともと双子ならではの幼少期のエピソードや互いの秘密を暴露し合って「オイ言うな~」とツッコむネタを持つダイタクは、今回も暴露合戦をそのスタイルに落とし込んで成立させていた。特に大のカミングアウトは、同じ親を持つ者同士、同じ顔を持つ者同士という関係性ならではの内容で、思い通りに拓のツッコミを引き出している。カミングアウトの内容で自分たちのスタイルに企画を引き込む技術の高さを見せつつ、拓が「全裸キャンプ」という大ネタを放り込むという、カミングアウト漫才のひとつの理想形といえそうだ。
続くマユリカは、千鳥とゲストの岸明日香の採点による結果が5組の中で最下位となった。
マユリカの本ネタは、小学生の男の子が親友に転校を打ち明けるという漫才コント。ここにカミングアウトが織り込まれるわけだが、コント中の中谷のセリフに「俺、おまえに言ってないことあってさ、実は……」という一節があったことが、この企画と絶望的に相性が悪かった。本来、本ネタ中に急に「俺、おまえに言ってないことあってさ、実は……」と言い出すことがイレギュラーとなるはずの企画だが、本ネタ中に「転校すんねん」というフィクションのカミングアウトが挟まってしまうことで焦点がブレてしまっているのだ。また、マユリカの漫才の特徴として大喜利的な発想の強さがあるが、その発想の強さがカミングアウトの内容を上回ってしまっていると感じられる場面もあった。
人が好すぎてダイタクのような性格の悪い暴露ができず、さらに本ネタの発想が面白すぎてカミングアウトにインパクトがないという、漫才師としてはいいのか悪いのかよくわからない結果となっていた。
収録後にM-1王者となった令和ロマンにとっては、今回のカミングアウト漫才は大きな収穫になったのではないか。彼らに寄せられる芳しくない評判のひとつとして「ニンが見えない」というものがある。確かに圧倒的に上手いし、面白いし、どこに行ってもウケるが、2人の人間性が見えてこないというものだ。それでM-1を勝ってしまうのだからとんでもない技術の持ち主ということだが、このカミングアウト漫才は令和ロマンの「ニン」を見せるのにはうってつけの企画だった。
一昨年のM-1敗者復活戦で2位になったドラえもんネタをベースに、高比良くるまが松井ケムリの倍のギャラをもらっていたことを告白。「それでやる気がなくなった」と告げると、不可解なギャラ格差に怒りつつも、くるまがやる気をなくすと誰よりも困ってしまうケムリの微妙な立場が浮き彫りに。結果、「俺のほうがやる気ないからね」と開き直るなど、2人の言い合いはヒートアップしていく。
そして口ゲンカが熱を帯びれば帯びるほど、本ネタに戻らなければいけないという企画の縛りが効いてくる。ほのぼのとしたドラえもんネタと、まるでブラックマヨネーズのようなエグい罵り合いとのコントラストが生まれ、今度は本ネタがウケないこと自体が面白くなっていく。ケムリの「(本ネタが)全然ウケねぇじゃねえかよ!」というツッコミが爆笑を生む。
つまりは、こんな令和ロマンが見たかった、という令和ロマンを見せてきたということだ。収録時点でもっとも有名な彼らのネタがドラえもんだったことも、カミングアウト漫才には有効に作用した。
結果、1位はギャロップ、2位はマシンガンズ。場数がそのまま出た形だったが、若手3組にとっては得難い経験になったはずだ。単なるゴシップ企画と思わせておいて、漫才のスタイルに対する応用力とアドリブ力、コンビの関係性まで見せてくれる「カミングアウト漫才」、来春も楽しみである。
(文=新越谷ノリヲ)
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