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ストリートチルドレン、難民、代理母出産……世界各地の過酷なお産を巡る旅『世界の産声に耳を澄ます』

 エクアドルと同じ中米のホンジュラスでは、ストリートチルドレンが、売春やレイプによってできた子どもを産む。まともな教育も得られず、母親としての知識もない彼女らは、子どもたちを病院に連れて行くこともなく劣悪な環境で育て、そのほとんどが1~2歳になるまでに死んでしまう。また、国民の3人に1人がHIVに感染するアフリカ南部のスワジランド王国では、親をエイズで亡くした孤児が親戚の家をたらい回しにされたり、ストリートチルドレンと化し犯罪に手を染める。日本では気づかないが、親の愛情を一身に受けて育つというだけでも、とても恵まれていることなのだ。

 しかし、そんな状況を目の当たりにしながらも、石井氏は本書のあとがきで「ひとつひとつの命が持つ可能性は、すべて等しく無限だ」という希望を記している。どうして、そんな楽観的な希望を語ることができるのか? それは、彼の見た光景が、決して絶望だけではなかったからだ。

 内戦が続いたスリランカで出会った女性は、兵士にレイプされて妊娠した。

 堕胎をするには、経済的にも時間的にも余裕がなかった。彼女は子どもを産み、施設に預けることにした。しかし、首が据わるまで3カ月間、生まれた男児を抱き続け、母乳を与えていた彼女は、子どもを手放さずに、自分の手で子どもを育てることを決意する。両親には猛反対され、出生の秘密を知る村人は彼女をあざけり、彼女の周囲にはいつも非難の目が向けられていた。しかし、彼女はわが子のために涙を流さず、村民に対しては気丈に振る舞い、息子の前では明るい笑顔を見せた。成長した息子は「なんでお父さんがいないの?」と友達から聞かれると、必ずこう答える。「ママはなんでもできるすごい人なんだ。お父さんなんていらないほど、すごいんだぞ!」

 レイプの末、望まない妊娠によって生まれた子どもに対して葛藤はないのか? 当然の疑問に対して、彼女ははっきりとこう答えた。「うちの子って、すごくかわいいの。誰が父親なんて関係ない。私の息子だから」

 世界中の過酷な現実を見続けてきたルポライターは、「子どもの持つ無限の力は、現実の不条理を打ち破ることができる可能性を秘めている」と書く。本書には、戦争の続く中東シリアを逃れた難民たちが、キャンプにおいて多くの新たな生命を育んでいる様子も描かれている。子どもの持つ「可能性」が現実を変える日が、一刻も早く訪れることを願ってやまない。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2017/05/26 21:00
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