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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.567

刑務所が処罰から更生の場へと変わりつつある? 受刑者たちの内面に迫る『プリズン・サークル』

「島根あさひ社会復帰促進センター」では、TCと呼ばれている教育プログラムが行われている。受刑者たちが交代で、それぞれの生い立ちを語り合う。

 まるでSF映画を観ているかのようだ。新しい刑務所は官民協働で運営され、ドアの施錠や収容棟への食事の運搬などは自動化されている。受刑者たちにはビジネスホテルばりの快適な個室が与えられ、ICタグが付けられた受刑者は所内の独歩が許されている。出所後のために、様々な職業訓練も用意されている。2008年に開設された「島根あさひ社会復帰促進センター」は、PFI(半官半民方式)の先端的な男子刑務所として知られている。なかでも最も注目すべきは、TC(Therapeutic community)と呼ばれる教育プログラムを採用している点である。坂上香監督のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』は、長期間にわたって「島根あさひ」を取材し、TCに参加した受刑者たちの内面に迫っている。

 刑務所といえば罪を犯した人間を一般社会から隔離し、刑罰を与える特殊な場所だと思っている人にとっては、この映画はかなり驚く内容だろう。「島根あさひ」は初犯など犯罪傾向の進んでいない比較的若い男子受刑者たちを、最大で2000名まで収容。受刑者のことは訓練生と呼び、彼らの社会復帰に重点を置いている。その象徴がTCであり、日本語で治療共同体、もしくは回復共同体と訳されている。TCに参加する訓練生たちは円座となってグループミーティングを開き、それぞれがこれまでの体験を語り合うことで、自分自身を見つめ直し、更生のきっかけを得ることになる。

 罪を犯した人間に何を生ぬるいことを、と思う人もいるかもしれない。ビジネスホテルのような恵まれた環境で、罪を反省できるのかと。だが、本作を観ていて気づかされるのは、受刑者たちの多くは罪の意識を持っていないということだ。TC訓練生たちのほとんどが、子どもの頃にひどい虐待に遭ったり、愛情を知らないまま育っており、自分たちは被害者であるという意識が強く、加害者としての自覚は薄い。運悪く捕まってしまっただけだと思っている。これでは刑期を終えて出所しても、再び罪を犯す可能性が高い。

「島根あさひ」でのTCの教育プログラムは、1週間に12時間ほど。民間の臨床心理士や社会福祉士らが支援員となり、円座となったTC訓練生たちの会話を促す。TC参加歴の長い先輩訓練生が率先して自身の体験談を語ることで、新しい訓練生も少しずつ口を開くようになっていく。他者に話しているうちに、自分自身の生い立ちや育った環境の記憶が明確に甦っていく。施設で育ち、家族の思い出は母親の髪のシャンプーの匂いがわずかに記憶に残るだけ。小さい頃から虐待やいじめが当たり前のようにあり、盗みを働くことにまったく罪悪感なく育ったこと。訓練生の多くが、根の深いトラウマを抱えていることが分かる。

 訓練生たちの語るトラウマの数々にも驚かせられるが、彼らに親身になって接する支援員たちの姿も印象的だ。他の刑務所と違ってここでは、訓練生たちは「さん」付けで呼ばれ、自由に会話することが許されている。実社会で人間扱いされずにきた訓練生たちは、ひとりの人間として扱われ、口先だけではない真剣なコミュニケーションを重ねることで、彼らの態度は徐々に変わっていく。

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