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中国研究チーム「回復しても抗体が少ない患者がいる」、新型コロナの“集団免疫”はどうなる?

イメージ画像/出典:happyjune

 中国の研究チームが新型コロナウイルス感染の治療を終えた患者の中に、多くの中和抗体が少ない患者がいることが判明したと発表した。

(参考:https://www.scmp.com/news/china/science/article/3078840/coronavirus-low-antibody-levels-raise-questions-about「South China Morning Post」Coronavirus: low antibody levels raise questions about reinfection risk 10:00pm, 7 Apr, 2020 より)

 抗体が作られないとすれば、ワクチンが効かないという可能性もあり、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発に大きな影響が出る。

 4月8日、中国・上海の研究チームが上海公衆衛生クリニックセンターから退院した175人の患者の血液サンプルを分析した結果、3分の1近くの患者の抗体が予想以上に低いレベルであったと発表した。患者の中には抗体がまったく検出されないケースもあったと報告されている。
 筆者は3月10日の記事「一度陰性でもまた陽性反応が出るケースも…新型コロナウイルスが新たなステージへ」(https://www.cyzo.com/2020/03/post_233908_entry.html)で、中国では新型コロナウイルス感染の退院患者の中からウイルス検査で再び陽性反応が出ている例が報告されており、ワクチンや治療薬の開発に大きな影響が出る可能性があると指摘した。

 上海の研究チームの報告は査読(研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証)が行われていないことから現状では参考情報だが、早急に検証を行う必要があるだろう。もし、新型コロナウイルス感染が完治しても抗体が作られないとなれば、再感染のリスクが高まる上に、ワクチンに効果がないということにもなりかねない。

 そもそも感染症とは、2つの基本原則がある。ひとつは短期間に複数の人々に感染することで、もうひとつが一度感染して完治すると免疫ができ、多くの場合は再感染することはなく、他人を感染させることがないという点だ。

 このため、感染症の防止策で有力もののひとつに「集団免疫」という考え方がある。

 一度感染して完治すると免疫ができて、他人を感染させることがなくなるため、多くの人が感染し完治することで、免疫がない人々も感染しにくくなり、感染が流行しにくくなるというもの。

 つまり、感染流行を許容することにより、免疫集団を作ることで感染症を防止するという考え方だ。新型コロナウイルスに対して、当初、英国がこの方法を採ろうとした。しかし、新型コロナウイルスは重症化(特に高齢者)を招くことや感染患者数に対して、医療体制が維持できないなどの理由により断念した。

 翻って見れば、日本政府、安倍晋三政権も口に出すことすらないものの、PCR検査に対する取り組み姿勢や感染防止のための隔離対策の遅れ、緊急事態宣言の発出の遅れなどを見れば、「集団免疫」を新型コロナウイルスの防止策としていた可能性が高い。

 何故ならば、感染患者の隔離や外出禁止といった強力な隔離策を行うと感染者数が少なく、それだけに免疫を持つ人が少なくなり、ワクチンや治療薬が開発され使用できるようになるまで、かなりの長期間にわたって隔離策を継続していかなければならなくなる。

 安倍首相や小池百合子東京都知事、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議などは、繰り返し“正念場”という言葉を使い、外出自粛を求めているが、実は「集団免疫」が作られない以上、ワクチンや治療薬が開発されるまでが“正念場”ということなのだ。

 ところが、上海の研究チームが報告しているように、新型コロナウイルスは“抗体が作られにくい”ウイルスだとすれば、「免疫集団」が出来上がる可能性は低く、「病原体から作られた無毒化あるいは弱毒化された抗原を投与することで、体内に病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する」というワクチンの効果に期待ができないということになる。

 つまり、新型コロナウイルスのワクチンに対する考え方や開発方法を、根本的に変えなければならないなど、大きな影響が出る可能性がある。さらに、ワクチンにより免疫を作ることで「集団免疫」を形成するという防止策には効果はないことになる。

 言い換えれば、新型コロナウイルスにワクチンがないということは、いわゆる「風邪」や「肺炎」と同じであり、はたまた「がん」のようにワクチンがない。非常に死亡率の高い「風邪」や「肺炎」が新たに加わるということかも知れない。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/04/13 12:12
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