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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.582

感動ポルノではない、バリアフリーな冒険ドラマ  いつか出会う、もう一人の自分『37セカンズ』

女性障害者の性タブーに斬り込んだHIKARI監督

風俗遊び好きなクマ(熊篠慶彦)、障害者向けの風俗嬢・舞(渡辺真紀子)、介護福祉士の俊哉(大東駿介)が登場し、物語は大きく動き出す。

 初めての性風俗は苦い体験となるものの、ユマは運命的な邂逅も果たすことになる。ラブホテルのエレベーター前で立ち往生していたユマは、風俗遊びの常連・クマ(熊篠慶彦)、障害者向けのサービスをしているデリヘル嬢の舞(渡辺真紀子)、クマに付き添う介護福祉士の俊哉(大東駿介)と知り合う。母の言いつけを守っていれば、決して出逢うことのない3人だった。ユマとはまったく異なる価値観を持つクマたちと交流することで、彼女の世界はぐんと大きく広がる。

 18歳で米国留学し、南カルフォルニア大学院映画芸術学部を卒業したHIKARI監督の長編デビュー作となる『37セカンズ』。ベルリン国際映画祭パノラマ観客賞と国際アートシアター連盟賞とダブル受賞を果たしている。サロゲートセックス(代理セックス)をテーマにした実話系映画『セッションズ』(12)のモデルとなった女医シェリル・コーエンをインタビューしたことがきっかけで、本作の構想を思いついたそうだ。日本では男性障害者向けの性サービスを題材にした映画『暗闇から手をのばせ』(13)などは制作されているが、女性障害者の性が描かれることはまだ少ない。そんな女性障害者の性タブーに、HIKARI監督はストレートに斬り込んでみせた。

 HIKARI監督によってオーディションで選ばれたのが、新人・佳山明。「37秒間、息をしていなかった」というユマの生い立ちは、佳山自身のものだ。佳山と出会ったことで、HIKARI監督は脚本を大きく書き直している。かぼそい声の佳山だが、冒頭の入浴シーンからベッドシーンまで文字どおり体当たりで演じてみせている。

 障害者を主人公にしていることで、感動ポルノかと思う人もいるかもしれない。だが、『37セカンズ』は身体障害者の物語ではなく、心にわだかまりを抱える人たちの普遍的な作品となっている。体に障害がなくても、「もっと容姿に恵まれていれば」「もっと裕福な家庭だったら」と自分の生い立ちに不満を覚え、自身の人生を呪った人は少なくないだろう。自分の運命や家族を呪うことは、自分の心も縛りつけることにつながる。自分の置かれた環境に責任転嫁し、自由に行動することができなくなってしまう。だが、ユマは違った。母・恭子の重くのしかかる愛情も、親友のふりをしたSAYAKAによる搾取の構図からも、車椅子に乗ったユマは鮮やかに振り切ってみせる。

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