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絶賛公開中! 映画『無頼』公開記念対談

井筒和幸監督の新作で松本利夫(EXILE)が「人格崩壊寸前」の熱演! アウトロー映画『無頼』が描く、戦後の成長と歪み

ヤクザも政治家も銀行も大企業も、みんな欲望へと突き進んだ

 

映画『無頼』より (c)2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

──『無頼』の主人公・井藤正治(松本利夫)は、いくつかの抗争を経て裸一貫で裏社会をのし上がり、やがて高度成長の波に呑まれながら、政治家や宗教団体とも切った張ったを繰り返しながらサバイバルすることに。ヤクザ映画でありながら、経済的な視点を盛り込んでいるところが印象的です。

井筒 たいていのヤクザさんはそうなんだけど、境遇ですよ。親がいなかったり、ド貧乏だったり、嫌な言葉だけど「出地」「門地」によって差別されてきた。その意識がなくならない限り、階級差別も人種差別も部落差別もなくならない。追い詰められても、この社会で生きていかなくちゃいけない。生きていくために、経済ヤクザとなっていくわけですよ。昭和の時代は、まだ牧歌的だった。仁義を通し、兄弟分になって、組を作ってファミリーになっていった。やがて時代はバブルになり、ヤクザだけでなく、政治家も銀行も、みんな欲望に向かって突き進んでいった。結局、実体のないバブル経済は弾けたわけやけどね。

松本 井筒監督は、ご自身が見てきた任侠映画をどのように受け止めていたんですか?

井筒 中学生の頃に観た任侠映画はダメだった。着流し姿のおっさんが「俺はケチな殺し屋だ」なんて言うんだけど、どこがかっこいいのか分からなかった。俺の上の世代である全共闘世代は、権力に逆らう自分たちと高倉健さんや鶴田浩二さんらを重ねていていたんだろうけど、あれは橋本治さんが東京大学在学中に描いた「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」という駒場祭のポスターの影響だよ。当時の映画館は、デモ帰りのヘルメット持った大学生が大勢いたけど、俺にはちっとも刺さらなかった。1970年代になると深作欣二監督の『仁義なき戦い』が公開され、これは刺さった。『仁義なき戦い 代理戦争』(73年)の渡瀬恒彦は鉄砲玉としてピューっと飛んでいき、返り討ちに遭ってハチの巣にされてしまう。ドキドキしながら観たよ。明日なき命のドラマだ。グッと来た。俺も、その頃は無職だったからね。

松本 まだ映画は撮ってなかったんですか?

井筒 何もしていないプー太郎だった。3年間くらい働かずにいて、お金はなかったけど映画だけは観てた(笑)。

松本 僕が井筒監督の映画が面白いなぁと思うのは、他の不良映画と違って、主人公がかっこよくないところです。かっこよくない人たちが成り上がっていこうとする。そこに生々しさを感じたんです。井筒監督は不良っぽくない不良映画を撮ってきた。だから、今回も絵に描いたようなヤクザ映画にはしないだろうなと思い、自然な形で主人公を演じられるようにして現場に臨んだんです。

──具体的には、どのように役づくりしたんでしょうか?

松本 アウトロー映画はかなり観ましたし、本も読みました。いちばん手がかりになったのは、撮影に入る前に井筒組からいただいた“シオリ”です。独特な細かいルールやしきたり、『無頼』の脚本に出てくる用語の説明などが書かれていて、かなりボリュームのあるものでした。

井筒 我が井筒組の演出部が用意するもので、僕はシオリの内容はチェックしていないんだけどね。『パッチギ!』のときも時代背景とかを説明したシオリを用意したんですよ。いちいち、一人ひとり監督ルームに呼び出して説明していられないから。「これ読んで、視野を広げてください」というものです。

松本 シオリはしっかりしたものでしたが、基本的には用語説明なので、その用語をどのように使うのかは自分で調べました。

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