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M-1にはなぜ、年齢宣言があるのか?

ダウンタウン松本のボヤキ「お笑いで、年をとる事は罪」なのか? 元芸人が考えるベテランの条件

お笑いを突き詰め続けた芸人だけをベテランと呼ぶ

 さて、結論からいうと僕の意見は“NO”だ。罪ではない。むしろベターである。

 個人的な考えだが、芸人を職種としてカテゴライズした場合、間違いなく『技術職』に分類される。

 技術職は経験と知識をベースとし、オリジナリティを付加することで個人の価値を向上させていく。お笑いはそれが顕著に出るのだ。経験を積めば積むほど引き出しは充実し、他の演者との”笑いの方程式”も多くなる。

“笑いの方程式”というと難しく感じてしまうかもしれないが、例えば日常生活の中で『○○先生は甘い物の話をすれば機嫌が良くなる』とか『○○課長に旅行の話をふれば必ずあのエピソードを話す』など、誰しもやっているものである。3年目の若手芸人と25年目のベテランとでは使える引き出しの量や方程式の数が違う。

 長くやればやるほど、臨機応変に笑いを取る対応力が身につくのだ。

ただし、注意して欲しいのは、『ベテラン』と一括りにしたが、ひたすらお笑いを研究し続け、流行も受け入れて勉強している者に限る。ある時期でお笑い体内時計が止まっている芸人は、芸歴が長いとしてもこの場合の『ベテラン』には当てはまらないのであしからず。

 ちなみに前述したような、経験に基づき才能を発揮する人間を『秀才』と呼ぶ。類義語で『天才』という言葉もあるが、違いは何か――。

 簡単に説明すると天才は先天的才能で、秀才は後天的才能である。面白いことに芸人とは「天才は秀才に勝てない」職業なのだ。お笑いにおける天才と呼ばれる芸人は、往々にして天然の場合が多い。本人は意図しておらず、ただ真剣に取り組んでいるだけで笑いがおこるのだ。

 笑いを起こすことが最重要と書いておきながら、なぜ自然体で笑いを起こせる天才が秀才にかなわないのか。

 持ち前の才能だけではどうにもならないというのを立証した番組がある。

 それは”水曜日のダウンタウン”で2020年10月21日に放送された『NSC同期一の天才だった芸人、意外とくすぶってる説』という回だ。奇しくもダウンタウンさんの番組である。

 吉本興業のお笑い養成所NSCにて、同期で最も天才といわれた芸人はいまどうしているのかを調べるという企画。

 検証結果から言うとおおよそ

〇すでに芸人を辞めて一般人になっている
〇消息不明
〇インディーズバンドをやっている
〇まだ芸人を続けているが芽が出ていない

という結果だった。

 もちろん大阪35期で名前が上がったゆりやんレトリィバァや大阪26期の天竺鼠の川原など、例外的に今も活躍している芸人もいるが、ほんの一握りで、しかも番組のMCを継続してやるようなタイプでは無い。

 つまり、天才が必ずしも売れるという世界ではないとお分かりいただけただろうか。

 テレビで活躍する人たちは、間違いなく後天的な秀才である。お笑い第7世代がブームになっているが番組のひな壇に座っているのは数年前とさほど変わらない顔ぶれで”若手芸人”と呼ばれていても40代が中心である。多くの方程式を携え、経験を積んだベテラン芸人たちが才能を爆発させている証拠である。

 僕がまだ芸人をやっていた頃、大阪の番組でネタをやる機会があった。

 その際に、1999年に大阪市が指定無形文化財に指定され、「上方漫才の宝」と呼ばれた、夢路いとし、喜味こいし大師匠と共演させて頂いた。

 当時すでに70歳を越えてらっしゃったお二人が、なんと番組で”新ネタ”を披露したのだ。

昔からやっている「待ってました!」と言われるようなネタではなく、まだお披露目をしていない正真正銘の新ネタだった。

 会場は笑いに包まれ、楽屋でモニター越しに見ていた僕は相方と大爆笑したのを今でも鮮明に覚えている。

 70歳を越えてもネタを書き続け、客前で披露し笑いを起こす。その姿は抜群に格好よく、感動すら覚える。『生涯現役』とはこういう人達の為にある言葉だ。

 お笑いにおいて、歳をとる事が罪なのではない。年齢など関係なく、笑いを取らない事が罪であり、むしろ若くないイコール古い笑いだと決めつける事のほうが罪である。

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