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「働く上でなんの意味もない」と就活で否定する企業も……家族を介護する“ヤングケアラー”の孤独と本音

「働く上でなんの意味もない」と就活で否定する企業も……家族を介護するヤングケアラーの孤独と本音の画像1
近年、メディアで取り上げられるようになったヤングケアラーの問題。こちらはNHKのホームページより。

 18歳未満で家族の介護に携わっている人のことを「ヤングケアラー」と呼ぶ。

 家族に介護が必要になったとき、施設や訪問介護のサービスを毎日すぐに利用できるとは限らない。身内が自宅で介護を担わざるを得ないことはよくあることだ。特に大人が生活費を稼がねばならない状況では、たとえ中高生や小学校高学年だろうと子どもが日常的なケアを引き受けることになる。高齢者介護に限らず、精神疾患や難病を患った親のケアに携わる子どもも少なくない。

 『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)は、7人の元ヤングケアラーたちがその経験を振り返って言語化した本である。そこには「かわいそう」とか「壮絶」といった言葉では表現しきれない、複雑で切実な体験が綴られている。当事者はそもそも、周囲になかなか相談・吐露できないと感じており、意を決して実行しても通り一遍の“アドバイス”や“説教”を投げかけられたりすることによって、「話を聞いてもらえない」「わかってもらえない」という想いを募らせ、孤独を深めていくのだ。

 同書の編著者で、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部の澁谷智子教授に、非当事者が知っておきたい事柄について訊いた。

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澁谷智子編『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)

直面する「社会」からの無慈悲な評価

――日本にはヤングケアラーはどのくらいいるのでしょうか?

澁谷 近年では埼玉県や国の調査が進んでいます。埼玉県が17歳の高校2年生を対象にした全数調査をしたときには、全体の4.1%、つまり約25人に1人という割合でした(2020年調査「ケアラー及びヤングケアラー実態調査の結果について」)。また、16年に大阪で公立高校の高校生を対象に調査が行われたときは20人に1人と、より高く出ています(濱島淑恵・宮川雅充「高校におけるヤングケアラーの存在割合に関する一考察」。

――クラスに1人か2人はいるということですよね。

澁谷 はい。でも、ひとくちにヤングケアラーといっても、いくつかのケースがあります。高齢者介護を子どもだけで行っていることは少ないように思います。土日の介護や入院や施設の手続き、ケアマネジャーとのやり取り、法律やお金をめぐる部分は大人が関わり、平日の日常的なことは家に早く帰ってくる子どもがやる、といった形です。埼玉県調査では、高齢者介護に関しては1日1時間程度でかかわるヤングケアラーが多いのかなという印象を持ちました。

 ヤングケアラーの文脈でより問題視されてきたのは、親に対するケアです。なんらかの理由でお父さん・お母さんがケアを必要とする状況になると、学校から帰ってきても家でのほとんどの時間が家事と介護に費やされる。親に頼ることができない――。こちらのほうが子どもの生活や進路に関してダイレクトに影響が生じています。

――18年に著書『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)を出版された頃から若年介護の問題はメディアで取り上げられるようになりましたが、「ヤングケアラー」や「きょうだい」(障害のある子どもの兄弟姉妹のこと)という言葉は世の中的にまだまだ知られていないという印象ですか?

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澁谷智子『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)

澁谷 十分には認知されていないと思います。ケア当事者の若い子たちは「将来どうなるんだろう」「就職のときにどう判断されるのか」を気にしています。自分はケアに関わっていたから、ほかの子たちと違って部活も十分にできなかった、資格も取れていない、バイトもしていない――「自分には誇れるものがない」と感じて自信を失っていることが多く、面接でも「自分にはこういうことができます」とうまく語れない。採用を担当する企業の側も、生活と仕事を分ける価値観が強固にあって、ケア経験を語った子に対して「働いていく上では、なんの意味もない」「なんであなたがするの?」と面接で語ったりする。

――自分がしてきたことを否定されたら、相当ショックですよね。

澁谷 最初に経験した就職面接でかけられた言葉が、その子にとっては「社会」からの評価に映ります。「社会」を知っている人たちから、「君は家族のことしか知らない」などと言われたことで、立ち直るのに時間がかかってしまうことが少なくありません。

 でも、「ほかの子のように家の外に活動を広げることはできなかったけれども、家の中ではマルチタスクをこなしてきたし、情報を自分で集めて判断する力が付いた」といったことを元ヤングケアラーたちがアピールできるようになる、あるいは、そうした視点で採用側が評価するような社会に変えていきたいなと思っています。

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