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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.629

現代人を悩ませる“承認欲求”という名の呪縛 SNSを題材にした瀧内公美主演作『裏アカ』

SNSに夢中になり、孤独さをこじらせる現代人

ゆーと(神尾楓珠)は現実世界では人気者だが、彼もまた悩みを抱えていた。

 新しいクリエイターの発掘を目的にした、「TSUTAYA CREATOR’S PROGRAM FILM 2015」の準グランプリに選ばれた本作を企画したのは加藤卓哉監督。木村大作監督の『剱岳 点の記』(09)や降旗康男監督の『あなたへ』(12)などのメジャー作品で助監督としてキャリアを積み、本作が監督デビュー作にあたる。「March」と「ゆーと」は東京湾が見渡せるタワーマンションで夜を過ごすが、一見すると美しい光景にふたりの孤独な心情が投影され、寒々しいものとして映る。孤独な人間たちが集まった街、それが東京だ。寂しさを埋めようと誰かと繋がることを求めるが、別れた後は余計に虚しさが募る。SNSというハイテクツールに夢中になるあまり、孤独さをこじらせてしまう現代人の哀しみを、加藤監督はスクリーン上に浮かび上がらせる。

 撮影を担当した池田直矢カメラマンのフィルモグラフィーも興味深い。加藤監督とは『完全なる飼育 etude』(20)でもタッグを組んだほか、知的障害者の視点から格差社会や承認欲求を見つめた『岬の兄妹』(19)、若者たちの生きづらさを描いた『ソワレ』(20)など、インディペンデント系の問題作、話題作を多数手掛けている。3月26日より公開が始まった『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は“同調圧力”に陥りがちな日本人像をブラックコメディ化した、かなりユニークな内容だ。作品ごとにスタイルを変えながら、現代人の危うさ、はかない美しさを映像を通して伝えている。

 承認欲求、格差社会、生きづらさ、同調圧力……。目新しい用語が次々とネットニュースに流れ、現代人の悩みはますます増える一方だ。『裏アカ』の後半、承認欲求に振り回され続けた真知子はボロボロになってしまう。人生のどん底を味わう真知子だった。はたして、真知子は復活することができるのだろうか。

「ゆーと」がつぶやいた「おもしろき こともなき世に おもしろく」だが、この句には続きがある。病床にあった幕末の志士・高杉晋作の看病をしていた野村望東尼は「住みなすものは 心なりけり」という下の句を詠んで、短歌として完成させたと言われている。

 つまらない世の中を面白くできるかどうかは、本人の心の在り方次第。真知子が「ゆーと」と出会ったことも、決して無駄なことではなかった。最後に見せる真知子の表情には、どん底から這い上がってみせた者ならではのたくましさが感じられる。

 

『裏アカ』
監督/加藤卓哉 脚本/加藤卓哉、高田亮 撮影/池田直矢
出演/瀧内公美、神尾楓珠、市川知宏、SUMIRE、神戸浩、松浦祐也、仁科貴、ふせえり、田中要次
配給/アークエンタテインメント R15 4月2日(金)より新宿武蔵野館、池袋HUMAXシネマズ、渋谷シネクイントほか全国公開  (c)2020 映画「裏アカ」製作委員会
http://www.uraaka.jp

『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』
監督・脚本・編集/池田暁 撮影/池田直矢
出演/前原滉、今野浩喜、中島広稀、清水尚弥、橋本マナミ、矢部太郎、片桐はいり、きたろう、嶋田久作、竹中直人、石橋蓮司
配給/ビターズ・エンド テアトル新宿ほか全国順次公開中
http://bitters.co.jp/kimabon/

最終更新:2021/04/03 06:00
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