日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 現実とフィクションの間で問いかける是枝監督
宮下かな子と観るキネマのスタアたち28話

『誰も知らない』ドキュメンタリと物語の境界で視聴者に問いかける是枝監督の技術

実際に起きた重い事件を意外な視点で描く

 これは、ある5人の家族の物語。YOUさん演じる母・福島けい子、そして各々父親の異なる子供達4人。父親はいない。率先して母を手伝う12歳の長男・明を演じるのは、幼き頃の柳楽優弥さん。しっかりものの次女・京子役の北浦愛さん。まだあどけない4歳のゆき(清水萌々子)。おてんばお騒がせ次男・茂(木村飛影)。おそらく出生届も出されていない4人の子供達は学校に行かせてもらえず、幼いゆきと茂は外に出ることさえ許されていません。そして、家を留守にする母に代わって、京子が洗濯を担当、他家事はほぼ全て明がこなしています。そんなある日、母はお金を置いて家を出て行ってしまい、数カ月以上にも渡る子供達だけでの生活がはじまるのです。

 驚愕的な家庭環境の設定ですがこの作品、1988年に実際に起きた「巣鴨子供置き去り事件」を元にした物語。ネットでこの事件のことを調べてみましたが、映画よりももっと残酷だったようです。育児放棄。決して軽率には語れないこのテーマを、是枝監督は四季を織り交ぜながらたんたんと描きます。

 この作品を観終えて一番に思い浮かぶのは、子供達の笑顔なんです。子供達は、自分達の環境を嘆いたり、わがままを言ったりは決してしません。母親の愛情を受けずに育ったわけではなく、子供達みんな、母親を愛しているんです。確かに、YOUさん演じる母・けい子はとても魅力的で、常に対等に接し、冗談を言い笑い合っているような存在。子供達を導いてくれるような母親像ではなく、恋に生きる自由奔放な母親ですが、明に「好きな人できちゃった」と話すあのYOUさん独特の声色だったり親しみやすさもあって、なんとも憎めない要素がある。「あたしは幸せになっちゃいけないの?」という彼女の言葉はとても印象的で、母親である前に1人の女性であり、そして幸せを求める1人の人間であって。一括りに加害者として描くのではなく、そういう彼女の複雑な思いも垣間見えます。たとえ、ニュースでは容疑者として扱われる人物であっても、悪人には描かない。これが、善悪をはっきり区別しない、是枝監督作品の魅力です。

 そしてなんといっても、是枝監督作品最大の特徴はやはり、自然な時の流れを感じさせるリアリティ。固定しないカメラワーク、ほとんど音楽を導入せず環境音の使用、そしてメインの子役達をはじめ、役者の芝居に感じない自然体な佇まいと会話のやりとりは、まるでドキュメンタリーを観ているような臨場感。これは、台本を渡さずに口頭で台詞や設定を伝え役者に自由を与える、是枝監督独自の手法だからこそ生まれるものでしょう。この作品は1年かけて撮影されたものだそうで、四季の流れと共に、子供達自身も成長しているのが目に見えて分かります。柳楽さんは特に成長期だったこともあって、声変わりや身長等明らかに変化があって、役と役者自身の境界線が分からないくらいリアルなんです。

 母親が家を出ても、子供たちは「帰って来るね」という母親の言葉を信じ、今まで通りの生活を続けます。スーパーやコンビニで買い物をし、料理洗濯をする。当たり前のようにレジに公共料金の支払い書を持ってお金を払う明の姿が、とても切ない。お金が底をつき、ガス水道電気が止まれば公園の水を使い、コンビニの廃棄物を分けてもらう。子供達がカップ麺の容器に蒔いた雑草の種が、無造作にベランダで成長していくのですが、きっとこの植物は彼らの姿。環境に適用して逞しく生きる彼らですが、徐々に目の輝きを失い衰弱している様子だったり、肌の質感や部屋の様子もどんどん汚れていく変化があって、胸が締め付けられます。

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