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安倍元首相銃撃、山上容疑者凶行の裏に“日本人総健忘症”とメディアの怠慢

安倍晋三元首相銃撃、“個人のテロ”時代が来る

 ここからは怒涛の安倍晋三元首相“暗殺”事件についてである。

 最初は、文春の「安倍晋三と私」。林真理子、世耕弘成、飯島勲、阿比留瑠比、みのもんた、後藤謙次などなど。

 この顔ぶれを見ただけで読む気がしない。内容は紹介するまででもない。こんな有名な方とお付き合いがあったのよという自慢話である。

 これなら、新潮の櫻井よしこの檄文「世界に晒された日本の平和ボケ 改憲に命を懸けた『憂国の宰相』の遺志を継げ」のほうが読むに値するかもしれない。

 私には全く受け入れられない言い草だが、志を同じくする同志としての安倍晋三を失ったことは、櫻井などウルトラ保守派にとっては手痛いことだったというのは理解できる。

 参院選で自民党が勝ったことで、憲法改正へ弾みがつくとぬか喜びしている輩には気の毒だが、安倍のいない自民党の中で、憲法を骨抜きにする改憲をやり抜けるような政治家はいないと思う。

 そういう意味で、「ポスト安倍」は、自民党の混乱をいよいよ増幅させ、内部分裂という事態になりかねない危うさを感じる。

 ニューズウィーク日本版(7月9日〈土〉22時30分)を見て見よう。

 北島純社会構想大学院大学教授は今回のテロ事件が発生した理由を「空疎ないら立ち」のためだったとしている。

「新自由主義下で拡大した経済的格差に起因する呪詛の念と抑圧感は社会の至る所でため込まれている。それはコロナ禍でさらに拡大し、ウクライナ危機による物価高と円安で加速する様相を呈している。

 本来であれば、そうした『分断に対するいら立ち』は政権運営を担う与党に対峙する野党こそが受け止めるべき問題だ。しかし、自民党による巧みな野党分断策が奏功したこともあり、現状の野党がその任を果たしているとは言い難い。そのため現在の日本政治は、市民のいら立ちを受け止めることで社会的対立を緩和させるという『政治回路』が極めて脆弱になっている。

 コロナ禍での給付金額など、辛うじて連立政権内部での自民党と公明党間での交渉が市民の怒りをすくい上げる機能を一部で果たしているとも言えるが、それでも十分ではない。
与野党どちらを支持するかという党派性とは別の次元で、行きどころのない閉塞感と抑圧された不満の蓄積をいかに日本社会として解消していくか、という政治技法が『不在』なのだ。そうした行き場を失った『空疎ないら立ち』が最悪の形で表出したのが今回の安倍氏暗殺という悲劇かもしれない。

 現時点ではまだ確かなことは分からないが、言えるのはテロにカタルシスを得たのは犯人だけであり、残されたわれわれがどうやってこの虚無と短絡に満ちたテロを乗り越え、喪失感を克服していけるかは深刻な課題だということだ。

 経済格差にとどまらず、人口減少、エネルギー供給、低成長率と低生産性といった社会課題の抜本的で実効性のある解決は先送りされ続けている。

 問題を先送りし、思考停止する日本政治にこそ牙を向けられたと考えるのであれば、今回、日本を象徴する一つの存在としての安倍元首相に凶弾が放たれたことの意味をわれわれは冷静に受け止め、政治回路の刷新に本気で取り組まなければならない。

 それはすなわち、分断による衝突を調整する回路として政党政治を再興させることだ。そうしなければ、今回の喪失感を乗り越えていけないばかりか、日本が立ち行かなくなる。そうした岐路に、われわれは立たされている」

 また、ノンフィクション作家の保坂正康は、今回の事件を100年ほど前に起きた原敬首相暗殺事件と状況が似ていると見ている。

 戦争と疫病の流行と不況だという。庶民宰相ともてはやされた原敬は、第一次世界大戦は終わったが、スペイン風邪が猛威をふるい、失業者はあふれた。

 今回も、ウクライナ戦争、コロナ、不況は共通している。だが、暗殺の動機が違う。

 原敬暗殺は「社会を正すため」だったが、今回のは、いまのところ「個人の復讐」だとされている。

 だが保坂は、理由も曖昧な個人の恨みで要人を殺す時代になってしまったのは、政治的な暗殺が横行するよりも危険だとし、「その意味で、今回の事件は日本の歴史を変えた暗殺事件として、記録されるのではないかと考えています」と結ぶ。

 私もそう考える。個人の恨みを晴らすためのテロは、これから起こるテロルの時代の幕開けに過ぎないかもしれない。手製の銃が簡単につくれる時代。3Dプリンターを使えば、子どもでも銃を手にできる。そんな時代は、すぐそこまで来ているのだ。

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