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安倍元首相銃撃、山上容疑者凶行の裏に“日本人総健忘症”とメディアの怠慢

山上容疑者、凶行の裏にある“日本人総健忘症”とメディアの怠慢

 さて、今週の第1位は、山上容疑者の伯父の告白をスクープした文春である。

 新聞やテレビは警察が発表するまで、統一教会の名前さえ出さなかったのだから呆れる。
権力側に擦り寄って、情報を小出しにもらうことが当たり前になっている大メディアには、文春のような機敏さは失われているのだろう。

「あの子の母親は統一教会の催しで韓国に入り浸ってなかなか帰って来ない。あの子は宗教にハマる母のことでずっと思い悩み、長いこと苦しめられてきたんですわ」

 文春でこう告白しているのは、安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者の父方の伯父である。

 山上の父は38年前に亡くなっているが、伯父はこの父の実兄にあたる。伯父によれば、山上の母は、信仰する統一教会に多額の金を献金していて、親族にも金の無心を繰り返していたという。

 1980年9月に山上は奈良市内で次男として生まれた。父親は京都大学を出て民間企業で働く土質の技術者で、母親も市内で建設会社を営む裕福な家庭で生まれ、大阪市立大学を卒業している。

 だがそんな生活も、1984年に父親が自死を遂げたことで一変する。伯父によると、トンネルを掘るために山の中で生活するため、うつ病とアルコール中毒の末の死だったようだ。
伯父の妻(故人)による手書きのメモによると、母親が入信したのは93、4年だそうだ。

「彼女が統一教会にハマったきっかけは二つあったと思います。第一に夫の自殺。実は、その自殺の三年前の八一年九月にA子(山上の母親のこと=筆者注)は実母を亡くしているんです」

 それだけではなく、山上の兄も小児がんを患っていたという。

 だが、母親は夫の死後、生命保険金5000万円も統一教会に献金してしまったそうだ。

 そして困ると伯父のところに来て金の無心をした。

「金の無心は嫌というほど味わいました。2日に渡って『金を貸してくれ』と来たもんだから、『帰れ!』と言うて、お茶ぶっかけたこともありますわ。そこまでしても、その後も私の弁護士事務所まで来たり、韓国からも電話をかけてきた。統一教会のことになると、まるで目の色が変わってしまうんです」

 それでも母親は、実父が購入した土地も勝手に売却して、教会に寄付していたようだ。

 伯父は、知る限り1億円以上をつぎ込んだのではないかといっている。

 そんな母親を見て育った山上が、統一教会への恨みを抱えて育ったことは間違いないだろう。

 金がなくて大学に行けなかった山上は、専門学校から海上自衛隊に入隊する。しかし、2005年2月に山上は自殺を図るのだ。彼は保険金の受取人を母親から兄に変更していた。病気の兄に少しでも金を残そうとしたようだ。だがその兄も自殺してしまうのだ。

 その後、2000年に奈良県内の派遣会社に登録し、京都府内の工場で働き始める。はじめは黙々と仕事をこなしていたが、翌年から勤務態度に異変が起き、従業員や上司ともトラブルを起こすようになっていったという。

 そして事件が起こる。

 伯父のところに身を寄せているという山上の母親は、伯父に対してこう漏らしているという。

「私が統一教会に入ったことは徹也の人生には影響していない。事件と統一教会は関係ないでしょう。教義に反するようなことは、話したくない」

 この言葉を、幼い子を虐待して殺してしまう母親の言葉以上に怖いと思うのは、私だけだろうか。

 桜田や山崎の入信騒動から30年余。統一教会は平和家庭連合などと改称して、身内の不幸で心が折れそうになった人たち、一生けん命に働きながらも自分の人生に疑問を抱いている若者たちに、甘言を用いて近付き、話巧みに彼らを“洗脳”して入信させ、物心共にすべてを貢がせるやり方が延々続いてきたのはなぜなのだろうか。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」日本人総健忘症と、メディアの怠慢ではなかったか。

 山崎や飯干たちの「脱会」で旧統一教会の悪徳商法や、信者からすべてを吸い上げるシステムを断罪したことで、この世から教団を一掃できたわけではなかった。

 彼らは、宗教名を変えたり、トップを挿げ替えたりして、同じことを繰り返していたのに、一部のジャーナリストたちや被害者たちを救済している支援団体や弁護士たちを除いて、関心を持続してこなかったからである。

 山上容疑者の母親のような悲惨なケースは他にもまだあるはずだ。その人たちの身内が統一教会に恨みを抱き、同じような凶行をしないといい切れるだろうか。

 統一教会問題がまだ燻っている中で起きたのはオウム真理教事件(1995年)であった。優秀な若者たちがこの新興宗教にのめり込み、私が当時聞いていた限りでは、日本転覆を企てるために銃弾薬や戦車まで秘かに購入していたといわれる。

 山上容疑者は、教団トップを狙うのは難しかったから、教団と関係があると思われた安倍元首相を狙ったと供述しているという。だが、彼のいい分に私は首を傾げる。

 どちらの警備が厳重だったかは置いておいて、どっちを狙撃したら世の注目を集められるかは、一目瞭然である。山上容疑者が、母親の不実を詰り、自分や自殺した兄がそのことでいかに惨めな人生を強いられたのかを世に訴えたいと考えたとしたら。もしそれが目的だったとしたら、安倍元首相には失礼だが、目的は十分果たしたことになるのではないか。

 私は、第二、第三の山上事件が起こるのではないかと心配している。日本政府は、大企業の顔色ばかり窺い、富める者はさらに冨み、金銭的弱者たちはコロナ禍や物価高で、更に追い詰められている。

 15年ほど前に赤木某が、「希望は戦争」といって物議をかもしたが、「ポストバブル」に生まれた世代を含めて、日本社会から見向きもされていない状況はさらに悪化していると思わざるを得ない。

 いま政府が即刻やるべきことは、新興宗教にのめり込んだために、すべてを失ってしまった人たち、シングルマザーや満足に食事を摂れない子どもたち、老々介護で疲れ果てている高齢者たちなど、社会的弱者たちを救済することだ。

 そうでなければ、政治家たちは第二、第三の山上の影に怯えることになるはずだ。(文中敬称略) 

【巻末付録】

 今週はポストだけ。

 袋とじは「デジタル写真集大ヒット御礼 河北彩花 昭和ラブホヌードでズッキュン!」
「なをん。安齋らら 神の乳、昇天。」「なをん。AL LOVE DOLL」

 こんなLOVE DOLLがあったら最高だね。こうしてヘアヌードをボーッと眺めていられるのは、今はまだ、きっといい時代なんだろう。今はそれだけでいい。

 

元木昌彦(編集者)

「週刊現代」「FRIDAY」の編集長を歴任した"伝説の編集者"。

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もときまさひこ

最終更新:2022/07/19 11:00
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