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「自己啓発書にツバを吐きたくなる人にこそ読んでほしい」

水野敬也『夢をかなえるゾウ』最新作の主人公は夢がない!

『ドリーム・ハラスメント』でディスられたが……

――ライフステージによって、夢って変わりますよね。

水野 僕も子どもができて明確に変わりました。家庭ができる前は資本主義のピラミッドの中でいかに勝つかを志向していました。誰が自分のパートナーになるかわからない状態で不特定多数の女性にアピールしないといけないから、お金を持っていたほうがいい……みたいな競争に駆り立てられていた。でも、それって際限がなくて、たとえお金を手に入れてもあれがない、これがない、と無限に階段を登らされる。

 ところが家庭ができると、もっと身近な、子どものことも含んだ夢に変わってくる。独身の頃は東京のほうが便利で田舎はクソだと思っていたけれども、愛知県にある僕の昔の実家の庭にはブランコがあったんですよ。思春期の頃には「何もない土地だ」と否定的に感じていましたけど、今思うとなんちゅう豊かな世界だったのかと。今は港区に住んでいますけど、都市での子育ては不便な点も多い。地価は高いけど、子どもからしたら昆虫を捕まえたりもできないし、クルマはビュンビュン走っていて危ないですから。価値の多面性に気づけていなかった。

――ものの見方に子ども目線、子育て目線が加わりますよね。

水野 そうなんですよ。この前、学校で授業参観があって、そこで来ていた親御さんたちは感想を求められると、「みんなハキハキしゃべっていて良かったと思います」みたいなことを言うんです。学校は勉強に向いていてハキハキしている子が評価される重力が働いている。でも、実際はそうじゃない子もめちゃくちゃ多い。ウチの子は椅子の上に膝を抱えた座り方をして先生に怒られていたんですけど、僕からしたら完全に『デスノート』のLの座り方だったんですよ。ほかにも多動で座れなくてフラフラしている男の子がいたり、授業中にケシカスいっぱい集めている子がいたり。昔なら問題児扱いだったんでしょうけど、僕はみんなそれぞれ絶対に何か才能を持っていると思いました。先生だっておそらく才能を伸ばしてあげたいけど、どう伸ばしていいかわからないんじゃないかな。そういう子たちが取りこぼされないようにしたくて。だから、子ども向けの『夢ゾウ』も出そうと思っています。

『夢をかなえるゾウ』は、1、2、3では資本主義のピラミッドを登る方法を書いていたのが、4、0と来て、「そういうレールから外れたらダメだ」と思い込んで自分を否定している人に光を当てるほうがテーマになっていったんですね。人間には本来いろんな価値があって、それを見つけてあげられるのが親であり社会の役割だと思うんですけど、そういうことができづらくなっていることに危機感があります。

――今回の0では、結果、夢が見つからなくても人生を豊かに生きられるようになればいい、と書いているのかなと思いました。

水野 ガネーシャは「夢はなくてもいい」と言っています。ただ、改めて夢の良さも僕は言いたいんですよ。自分は夢に救われてきた人間ですから。「夢っていいぞ。あいつはいいヤツだ」と。

 もちろん、他人から「お前の夢は何?」と圧をかけられるのはストレスだと思うんです。『ドリーム・ハラスメント』という本で『夢ゾウ』がディスられていて、「そういう本じゃないんだけどな」と思いましたけど(笑)、0の主人公は課長からまさにドリハラされている。他人から「夢を持て」と押しつけられる苦しさも描いているんですよ。

 でも、自発的に持てる夢があるなら、それは今苦しい人には救いになる。僕は就職できずに無職のまま門前仲町で友達とルームシェアして、月10万円しか使わないギリギリの生活をしていた頃、近くにあった富岡八幡宮に毎日お参りしていたんですよ。「本を書こうと思っています。ベストセラーにしてください!」と。お金がなかったので、賽銭も入れてませんでした(笑)。でも、そうやって夢に生きるのは楽しかった。逃避という側面もあったかもしれませんが、健康的な現実逃避だったと思っていて。

――夢の功罪両面をいろんな角度から描いているシリーズであると。

水野 だから「は? 何冊やるんだよ。まだ夢かなえられないのか? 今度は『ゼロ』とか言い出して『呪術廻戦』商法かよ」と思っている人も、読んでさえもらえれば僕が伝えたいことを理解してくれる気がするんですよね。まあ……著者の僕がいくら言っても説得力ないんですけど(笑)。

 


水野敬也(みずの・けいや)

作家。愛知県生まれ。著書に『夢をかなえるゾウ』シリーズほか、『雨の日も、晴れ男』『顔ニモマケズ』『運命の恋をかなえるスタンダール』『四つ話のクローバー』、共著に『人生はニャンとかなる!』『最近、地球が暑くてクマってます。』『サラリーマン大喜利』『ウケる技術』など。また、画・鉄拳の絵本に『それでも僕は夢を見る』『あなたの物語』『もしも悩みがなかったら』、恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本を手掛けるなど、活動は多岐にわたる。

 

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2022/08/23 11:00
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