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絶賛の嵐となったアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』は一見さんでも楽しめるか?

『リアル』に近い、痛みに向き合う物語の誠実さ

 個人的に、この『THE FIRST SLAM DUNK』で持った印象は、良い意味で「熱血スポ根もの」ではなかった。同じく井上雄彦による作品で言えば『リアル』の印象にも近い、「うまく生きられない」痛みを抱えた人を描く「人間ドラマ」の魅力も大きかったのだ。

 事実、井上雄彦はインタビューで、20代の時には無限の可能性がある主人公の物語がすごくハマったが、そこから26年経って、痛みだったり、うまくいかないことを経験したからこそ、今はそうした存在の視点で描きたかった、といったことを語っている。

 主軸となる物語のトーンはややダウナーであるし、劇中ではそれを反映したかのように「曇り空」が多い。だが、だからこそ、原作漫画では他キャラクターに比べるとやや目立ってなかったとも言える「彼」にスポットを当ててくれたことが嬉しかったし、決して「天才」ではない彼の物語が、痛みに向き合う物語としてとても誠実だと思えたのだ。

 その「彼」の物語は、(実は井上雄彦は別のところですでに描いていたのだが)原作漫画を読んでいた人にも新鮮に映るだろうし、彼のアイデンティティを形成した出来事の最初から描かれているので『スラムダンク』を全く知らない人でも問題なく感情移入ができるはずだ。やはり、『THE FIRST SLAM DUNK』はファンはもちろん一見さんも楽しめる、極めて間口は広く、そして革新的な、これから先も伝説として語られる作品になるだろう。

 

 

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/12/10 20:00
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