世界は映画を見ていれば大体わかる #44

『シン・仮面ライダー』は元ネタ知ってると倍おもしろい! 14個ネタバレ解説

庵野秀明がこれでもかと元ネタを込めた訳を考察

 さて、以上のような元ネタが本作には込められているが、問題は

「なぜ、テレビ版やマンガ版からの引用が必要だったのか?」

だ。単にイースターエッグのごとく元ネタを入れているだけなら、マニアの遊びに過ぎない。本作が賛否ある理由として「オタクの元ネタ遊びなだけじゃないの?」という批判がある。

 確かに『シン・仮面ライダー』は歪な作劇で、

敵のアジトが発覚(どうやって見つけた?)→アジトに移動(どうやって?)→いきなり対決→「お前が来るのはわかっていた! まんまと罠にかかったな!」→からの逆襲

という見せ場だけが連続する。これはテレビ版が22分の放送枠の中で見せ場と見せ場の間を省略するという作劇の手法だったのだが、それすら完全に再現している! なんなら、テレビ版にあった「ちょっと安っぽく見える」演出すら、あえて取り込んでいるのだ。

が、『シン・仮面ライダー』は、そんなオタクの元ネタ自慢合戦なだけではない。

 1960年生まれの庵野秀明は66年の『ウルトラマン』、71年の『仮面ライダー』をリアルタイムで経験した世代だ。60~70年代の子供たちにとって特撮ヒーロー番組はテレビをつければ必ずやっている人気のコンテンツだった。

 しかし80年代に入り、ガンダムブームがやってくるとアニメ人気に押され、特撮ヒーロー番組は次第に勢いを失い、ウルトラマンもライダーもテレビで新作が放送されない隙間の時代がやってくる。隙間の時代に生まれた世代の子はテレビでウルトラマンもライダーも見たことがないという「分断」が起きる。

 2012年に東京都現代美術館で開催された「館長 庵野秀明 特撮博物館」の制作発表で庵野は「大好きだったものが消えつつある。それは仕方ない。ただ、こういうものがあったということは残して置きたい」とコメントをしていた。

 庵野は「新作」を作ることで、オリジナルを越えるのではなく、社会にオリジナルの魅力を拡げ、世間にオリジナルの面白さを再認識してもらう意図があった。そのためには「オリジナル」であるテレビの『仮面ライダー』と石ノ森のマンガ版、二つの世界を繋ぎ、その上さらに石ノ森作品に通じる「同族殺し」の要素を取り入れる手法を選んだ。

 仮面ライダーはショッカーが生み出した改造人間で、彼を倒しにやってくる怪人たちもショッカーが生み出した。『仮面ライダー』はショッカーという組織内の内輪もめと受け取ることもできる。『人造人間キカイダー』も、兄弟同士で殺しあうアンドロイドたちの話だ。『シン・仮面ライダー』も同じ組織の中で生まれた者たちが「人類の幸福」とは何なのかを巡って争う。

 現在も続くライダーシリーズにはこうした「石ノ森イズム」はあまり見受けられない。それは「分断」の時代を経て、新しい世代に特撮ヒーローものというジャンルを残していくために、あえて変えなくてはならなかったのだろう。

 しかし石ノ森作品のテーマとキャラクターを登場させなければ「分断」以前のオリジナルの魅力は再認識できない。元ネタの羅列は庵野監督にとって必要な儀式なのだ。

 庵野のそういうオタクとして信用のおける仕事ぶりには本当に頭が下がる。この手の昭和の懐かし作品の再映像化でよくある失敗ケースは、オタク向けの作品なのに作り手がオタク作品をやってることを恥じるような作り方をしている場合だ(しかも、その時に流行っていたハリウッド映画の演出を使ったりする。日本製の作品なのに!)。庵野はオタクであることを何ら恥じていないことは、作品を見れば明らかだ(恥ずかしがってた時代もあったけど……誰にだって黒歴史はあるのだ)。

 結果、『シン・仮面ライダー』は「狭いところに深く突き刺さる」作品となった。

「変わるモノ。変わらないモノ。そして、変えたくないモノ。」

というキャッチコピーが示したものは庵野秀明のオタク少年時代の思い出だった!

 

 

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/04/02 08:00
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