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ハリウッドザコシショウはなぜライブを続けるのか?②

「早くカンニング竹山さんみたいな位置にいかないといけない」ザコシショウの覚悟

「R-1には夢がありますよ」と、お笑い芸人ハリウッドザコシショウは言う。多くの優勝者たちがその「夢」をつかみきれないのはなぜなのか。ネタをよりエモーショナルに見せる「人間力」と、他者に頼らずとも笑いが取れる「自己完結ネタ」……地下から這い上がってきたザコシショウがテレビの世界で学んだサバイバル術とは。常に「マスをとりにいく」ザコシショウがどんなに多忙になっても単独ライブをやめない理由。

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写真|二瓶彩(以下同)

ーー前編ではピン芸人に求められる「人間力」についてお話がありましたが、ザコシショウさんは人間力の塊のような方ではないかと思います。

ザコシショウ:そりゃ感情豊かなほうが笑いの量も増幅しますから。同じネタをやるにも、テンション低く入ってきてテンション低くやるよりも、テンションマックスで(舞台に)出てきて「おりゃー」ってやる方が絶対にいいです。その方が「ウケたい」という人間味がありますし。

ーーウケたいという気持ちがエモーショナルに見せる。

ザコシショウ:ただウケたいというのを出すのは恥ずかしいんです。それにウケたいというだけじゃ笑いは取れない。僕はウケたいんですけど、観客を嫌な気持ちにもさせたいんです。

ーー(笑)

ザコシショウ:そうした方が「ウケたい」という気持ちがダイレクトじゃなくなるので良いんです。僕はあざといのが嫌いで……。

 たとえば後輩にアドバイスするにも「お前のことを想ってるよ」という気持ちを全面に出すのは恥ずかしいから、アドバイスと引き換えに嫌な気持ちにさせるんです。

ーーたとえば?

ザコシショウ:「一回やってみろよ」っていってやらせて、「こうした方がいいよ」「テンション高くやりなよ」と優しく言うのではなく「こうしろよ、場がつまんねーじゃん!」って感じでやらせた後に「ああ、そうじゃないよ」と落とす、みたいな。相手を気持ち良くさせないというね。

 なんだか照れくさいじゃないですか。その気持ちはお客さんに対してもそうで、何より照れくさいのが嫌なんです。

ーーなんだかそこにも人間を感じますね

ザコシショウ:引き換えに嫌な気持ちにさせる、でも笑える。みたいなのが僕は一番良いですね。面白いんですけどすごいでかい声で「うわー」って感じの方がテンションがあがるんです。

ーーちょっとお客さんが引くような?

ザコシショウ:そうなんです。

 現場にいるお客さんに対してベストな状態以上のものをやらないと、テレビの向こうにいるお客さんには伝わらないと思っています。現場のお客さんはちょうどいいところを求めているので、もっと貫かないとテレビの前のお客さんには届かないですね。短剣でつつくより大剣で突くほうがいいです。

ーーなるほど。ザコシショウさんがネタを作る際、どういう人を照準にしているのか。ファンと呼ばれる方々か、テレビの前の一視聴者なのか。

ザコシショウ:それは完全にテレビの前の人です。

ーーそれは一番(笑いを伝える距離的に)遠いからですか?

ザコシショウ:ライブであってもテレビの前のお客さんを意識しなければいけなくて。というのも目先のお笑いファンを笑わすのはけっこう簡単なんです。極端な話、内輪ネタをやればいいだけなので「〇〇の芸人がさ~」なんて誰かの悪口を言ったらウケるかもしれない。

 でもテレビの前の人には最新のニュースの話だったり、メディアに頻繁に出ている人の誇張モノマネとかをした方が絶対に良いんです。そういうのをやっていかなければいけないと思ってます。

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ーー常にマスをとりにいく。

ザコシショウ:そうです。メジャーでも通用するような。テレビの前の人たちは面白いと笑う、面白くなきゃ笑わないので。

ーーザコシショウさんはよく「尖っている・攻めてる」と表現されますが、今の「尖ってる・攻めてる」って「コンプライアンスにいかに対抗するか」と同義にされることも多いですよね。しかしお話をきいてるともっと広く大きなところに向けてアクションを起こされているんだなと感じます。

ザコシショウ:テレビ見た人にがっかりさせたくないという一心でやっています。「ザコシ、日和ったな」と言われるようになったら僕はおしまいなので。

 まぁ攻めているといっても、そうしないとテレビに出してもらえないからなんですけど。それを求められているからやるしかないという。

ーー「攻めてる」と感じる度合いも人それぞれなので、難しいですよね。

ザコシショウ:ゴールデン番組系の場合は直接「これどうですか?」って聞きます。
そこで「ダメ」と言われたら、そこまで冒険するような番組じゃないんだなと理解します。

 攻めてるところでいえば『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)が一番じゃないですか。

ーー芸人さんみなさん向上委員会を怖がられますが、ザコシショウさんはいかがですか?

ザコシショウ:怖くはないです。むしろさんまさんがすぐ拾ってくれるので。ネタがない時に呼ばれるのが一番嫌です(笑)。ネタがないときは騙しだましになっちゃう。

ーー出るのが怖いと感じた番組はありますか?

ザコシショウ:怖いというよりは「しっかりしなきゃいけない」と感じる場面はあります。
例えば『ダウンタウンDX』は、打ち合わせで話して決めたことをきっちりトークしてくださいと言われる。しかもカンペがあまり出なくて、それがめっちゃ怖いんです。浜田さんが「おいザコシ、なんやっけ」って話を振ってくれるんですけど、カンペが出てない時があって「いや出してくれよ!」って(笑)。

ーー錦鯉さんもそうでしたが、SMA芸人さんに話を聞くと「ザコシさんにこういわれた」というエピソードがよく出てきます。ご自身が”師匠”のような立ち位置になってることに対して、どのように感じていますか。

ザコシショウ:SMAに入った時にバラエティを見ていて、「早くサンミュージックの竹山さんみたいな位置にいかないといけないんだな」とは思っていました。事務所のリーダー的な存在といいますか。

 そうなるということは、つまり売れなければいけないということです。売れてなくて竹山さんの位置にはいけないので。「ザコシがいるからそういう番組が良い」「ザコシの若手を何組か紹介してよ」みたいなオファーがあればSMAとしても助かるし、番組としてもいいし、僕としてもいいし。

ーー「売れることはそんなに難しくない」というお話がありましたが、ザコシショウさんにとって売れることは最終目標ではないですか。

ザコシショウ:最終ではなくまずイチじゃないですか。売れなきゃ何にもならないですから。
売れてやっとスタート地点です。それを勘違いしている人がよくいます。なかには「コンテストでファイナリストになったからやっとここまできました」という人もいるんですけど、まだまだです。売れてやっとスタート地点なので、「やっとここまできました」っていう人は勘違いしているので、めっちゃ嫌いなんです。前途多難すぎます。

 前回のR-1で田津原理音が優勝してテレビを一周しましたが、まだ消えてはいないにしろ、あまり話題になっていない。それはあの子の頑張りが足りないからだと思います。

 夢なくないですもん、R-1って。夢があるから優勝して注目を浴びてスタート地点に立って、いろいろ知れ渡るわけですから。そこからどうにかして残っていくというのは自分の腕次第です。

ーーR-1優勝して夢が叶ったということではなく、そこでやっと夢に近づくチケットを手に入れることができるということですね。

ザコシショウ:売れないときは地面の中なんです。そこからやっと売れて、やっと芽が出る。そこから花咲くまでは自分の頑張りじゃないですか。

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ーー花を咲かせるのに一番大切なこととは?

ザコシショウ:芸能界を一周回るところでポジションづくりをすることですが、最初からポジションづくりはできません。

 優勝して回るときに自分として得意なものはネタなんです。ネタを振られてネタをやったらいい。ただ、ネタ番組ではないところで披露するので、それを短くやらなければいけないんです。

 たとえば『向上委員会』でさんまさんに「なんかやれやー」って言われた場合、長い尺じゃ無理なんです。ふっと振られてふっと返せる何かがなければ、機会はなくなっていきます。田津原理音の場合も、短く返して大爆笑取れるネタじゃないと、と僕は思っています。ただ、あれが優勝しちゃった。ラッキーだとは思うんです。そこでうまくシフトチェンジしていければいいですね。

 上手くシフトチェンジできた人といえば、(お見送り芸人)しんいちです。悪口や女関係やZAZYとのもめごとと、あれはうまくやりましたよね。しんいちの場合も、尺が長いので曲だけだと生きていけないと思います。

ーーどんなジャンルの芸人さんであっても、ぱっと言われたときにぱっと返せるようなものを自分のネタ以外に持っておかなければいけない。

ザコシショウ:逆をいえば、優勝していなくてもそういうものがあれば売れるんですよ。そこのスタート地点に立つようなものがあればすぐに売れると思います。それが永野だったんだと思います。チャンスをものにしたわけです。

ーーご自身は優勝された後そういうことを意識してテレビ番組に出演されていましたか?

ザコシショウ:いや、最初からそこまで考えるのは無理なので。R-1優勝した時も、いまひとつ僕の使い勝手というのを制作サイドもわからないんです。僕の取扱説明書をR-1だけで知るのは無理なんです。

 R-1だけでバーンといった人も少ないと思うので、あくまで結局はスタート地点に立つチャンスをもらうだけです。そこで全部を当てるのは無理なので、もらったチャンスのなかで上手くこなしていく。プロ野球でいう星取表みたいなものをつけていくことが大切です。今日は白星だった、今日は黒星だったみたいな。もちろん黒星続きなこともあるんです。

 ただ、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)は絶対にあてないといけない、『向上委員会』は絶対にあてないといけない、そういう場面で白星を出すことが大切です。『水曜日のダウンタウン』とか『向上委員会』とか有田さんの『脱力タイムズ』(フジテレビ系)とか、そういう場面でがつんとヒットを当てることができれば生き残ることができると思います。

ーー前回のインタビューでも「あらびき団でいえば東野さんと藤井さんがどんな形でも面白くしてくれる。有田ジェネレーションでいえば有田さんや小峠さんが面白くしてくれる。でもそこで(自分は面白いんだ)と勘違いすると他の番組でスベってしまう。だから自己完結させなければいけない」とおっしゃっていました。「自己完結させるためのネタづくり」とはどういうものなのでしょうか?

ザコシショウ:トーク番組だけどなんでもありという番組では、ネタを交えることができます。なのでキャッチーなやつを作っていく感じです。たとえば、先日収録した『向上委員会』であれば、話題性の高いネタを意識して、僕だったら中田あっちゃんの誇張モノマネ、くっきーは広末涼子をやっていました。そういった最近の話題の方が最初の食いつきがいいんです。そういうことだと思います。

ーーニュース性を柔軟に取り込みながらネタづくりをされていると。

ザコシショウ:作り方としてはコントの人よりも漫才師や漫談の人達に近いと思います。
お客さんを掴むための共通の意識といいますか。まず最初にトークがあるので、食いつきがあるものの方が容易く笑いが取れます。すぐにでも掴みたいものですから。

ーーテレビの視聴者をがっかりさせないこと、ニュース性をネタに盛り込むなど「マス」への意識を常に持っているザコシショウさんが単独ライブを続けることにはどんな意味があるのでしょうか。

ザコシショウ:タレントではなく芸人であり続ける以上、第一線で活動していないとダメだと思っています。芸人というのはやはりネタやっている人だと思いますし、ネタをやっているということは生のお客さんを相手にしなければいけないので。

 ネタってやらないとどんどん古くなっていきます。僕の場合、今の時期が一番大変です。新しいものを作っている状態なんですけど、いまテレビ局に呼ばれると新しいのは出せない、古いのはやりつくしたという状況になりますので、つらい時期です。

ーーアーティストの場合、1つの名曲をずっと歌い続けることもできますが、芸人さんの場合はそうではないですか。

ザコシショウ:芸人だってそうです。新しいものを求められるんですけど、ヒット曲みたいなものはずっと続けなきゃいけないんです。それは飽きちゃいけないんです。

 この番組では新しいのが求められるけど、こっちの番組では古畑のハンマーカンマーで良かったというケースもあるんです。こっちは最先端の方がほしいです、といわれて、こっちは福山さんください、みたいな。やりつくされたものを求められる場合もあります。

 そこは本当に番組によりけりなので、求められるものが違うことも多いです。なので全部並列でやっていかなきゃいけないんです。

ーーやはり芸人さんって、売れるって、大変なことだと思います……。

ザコシショウ:いやいや大変じゃないです。だってやりたいことですから。やりたいことをずっとやっていればいいだけです。一般職の人なんてやりたくないことをやらなきゃいけないと思うので。僕は苦だなと思ったことはないです。

ーー人を笑わせるのは難しくはないですか?

ザコシショウ:そんなことないです。皆さん、まことしやかに笑ってくれます。キ●ガイだなと思ったことを素直に舞台でやるとバカ笑いしてくれますから(笑)。

(プロフィール)
ハリウッドザコシショウ
1974年生まれ。静岡県出身。1992年に大阪NSCに11期生として入学し「G★MENS」として活動。同期は陣内智則、中川家、ケンドーコバヤシなど。2002年にコンビ解散、ピン芸人として活動を始める。「R-1ぐらんぷり2016」優勝。また「ドキュメンタル」(アマゾンプライム)では史上初のV3も達成。

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9月17日(日)東京・四谷区民ホールで追加公演「尿尿ザコシの劇場版ションちゃんベンちゃんのチンちゃんボーちゃん」開催。同公演は配信視聴も可能。詳細はhttps://online-ticket.yoshimoto.co.jp/products/hollywood-zakoshisyoh-230917まで。

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また同日同所で自身レギュラーラジオ番組公開収録イベント「AuDee presents 逆襲ザコシのチョゲチョゲPARK SEASON2公開収録」も併せて開催。詳細はhttps://eplus.jp/hollywood-zakoshisyoh2023kouroku/まで。

さらに通販サイトROCKET-EXPRESSでは、ツアーオフィシャルグッズ販売中。
商品詳細は、https://www.rocket-exp.com/zakoshisyoh/でご確認を。

西澤千央(ライター)

1976年、神奈川県川崎市生まれ。フリーライター。「文春オンライン」『Quick Japan』などで連載中。ベイスターズファン

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Twitter:@chihiro_nishi

にしざわちひろ

最終更新:2023/09/09 20:00
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