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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.66

アナーキーな”社歌”で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』

kawanosoko01.jpg「来るなら来てみろ大不況 その時ゃ政府を倒すまで♪」と勇ましい歌詞が踊る新時代の社歌。
佐和子(満島ひかり)は自分からにじみ出る負のオーラを反転させ、世間への逆襲に挑む。
(c)PFFパートナーズ2010

 満島ひかりはシジミのような女だ。そんなことを言うと、今をときめく若手実力派女優に失礼だろうか。モデル出身の高身長女優が闊歩するイマドキの芸能界にあって、162cmの満島ひかりは小柄な部類だろう。ルックス的にも整った顔立ちゆえ、逆に派手さがない。『モスラ2 海底の大決戦』(97)に子役で出ていた頃の満島ひかりは沖縄の少女らしく浅黒で、本当にシジミのよう。その後、アイドルグループ「Folder5」として売り出されるも、鳴かず飛ばずで自然消滅。しみじみと地味なプロフィールの持ち主である。しかし、そのシジミちゃんが大ブレイク中なのだ。渋谷ユーロスペースで公開中の最新主演作『川の底からこんにちは』が連日の盛況ぶりを見せている。シジミ入りの味噌汁が疲れた体にジワジワと効くように、満島ひかりという女優の存在は疲弊した日本映画界においてサプリメント的効果を発揮している。

 Folder5消滅後は、『ウルトラマンマックス』(05~06年、TBS系)に美少女アンドロイドとしてレギュラー出演していたが、感情表現が許されない、女優としてはしんどい役だった。しばらくは、園子温監督のホラー映画『エクステ』(07)、深夜ドラマ『帰ってきた時効警察』(07年、テレビ朝日系)などにちょこちょこと出演し、雌伏の時間を過ごす。しかし、川の土手からは見えないだけで、川の底では恐ろしいまでの潮流が渦巻いていたのだ。ヒロイン・ヨーコを演じた『愛のむきだし』(09)で園監督に徹底的に鍛えられ、自分自身をむき出しにすることで、女優開眼を果たす。固く閉じていた二枚貝がパカッと開いたごとく。以後、女優・満島ひかりの快進撃が始まる。

 『ウルトラマンマックス』のチーフ監督だった金子修介監督に抜擢され、オペラの世界を舞台にした『プライド』(09)では歌手のステファニーとダブル主演。演技経験のないステファニーが不憫に思えるほどの怪演。ふてぶてしい女の怖さ、嫌らしさを発揮してみせた。『クヒオ大佐』(09)では実在した結婚詐欺師プリンス・ジョナ・クヒオに騙される地味な博物館の学芸員役。ここでも松雪泰子ら他の女優陣がかすんでしまうほどの”痛い女”ぶりで場面をさらう。『食堂かたつむり』(10)は満島ひかりが目立ちすぎないように出番が削られたのではないかと勘ぐりたくなった。おいしい話や男にころっと騙されるダメ女を演じさせたら、今の満島ひかりに敵う女優はいないだろう。今秋公開の東宝映画『悪人』にもキーパーソン役でキャスティングされている。不景気で世知辛い世の中、満島ひかりの出番はますます増えそうだ。

kawanosoko02.jpgオバさんたちに新社歌を歌唱指導する佐和子。
劇中で歌われる「木村水産 新社歌」は反響
が大きく、現在エイベックスにCD化を打診している。

 大阪芸大卒の俊英・石井裕也監督作『川の底からこんにちは』で、満島ひかりは十八番としているダメ女ぶりに磨きを掛けている。主人公の佐和子は田舎を飛び出して5年。職場を5回変え、男も今の職場の先輩社員・健一(遠藤雅)で5人目。健一はバツイチの子連れ。「どーせ、自分は”中の下”ですから」と佐和子は自嘲気味に呟く。高望みする気力もなく、流れに身を任せ、テキトーな生活を送っていた。そんな折、田舎でシジミ工場を経営していた父親(志賀廣太郎)が倒れ、やむえず実家に戻ることに。そこへ、「工場経営の父が危篤。佐和子はひとり娘」ということに俄然着目した健一が娘の加代子(相原綺羅)を連れて強引に押し掛けてくる。しかし、工場は倒産寸前。健一は工場に勤める若い女子社員に早速手を出し、加代子を残して失踪。どーする、佐和子? 今まで流れに流されるままに生きてきた佐和子は、人生のどん底にぶち当たり、ついに腹を括る。

 逆襲への合図となるのが、シジミ工場「木村水産」の新社歌。毎朝、形だけみんなで斉唱していた社歌だが、覚悟を決めた佐和子はアナーキーさを極めた歌詞を体から吐き出し、世にも奇妙な新社歌が誕生する。他に職場がなく、仕方なくシジミ工場に勤めていたオバさんたちも佐和子と同様に長年溜め込んでいた体内毒素を新社歌斉唱をきっかけに吐き出していく。デトックスが進み、佐和子とオバさんたちの顔色が変わっていく。川の底からこんにちは。どん底からの女たちの反撃が始まる。

 それにしても満島ひかりは世間への怨念に満ちた役がぴたりとハマる。『プライド』で自分に冷たく当たる副社長秘書(新山千春)に対し、「私、イヤな思いをすると力が湧くんですよ」と恨みの言葉を投げ掛けるシーンは、『リング』(98)の貞子、『呪怨』(03)の伽倻子ばりの迫力だった。

 「キネマ旬報」(キネマ旬報社)5月上旬号で、金子修介監督がブレイク前の満島ひかりにまつわるエピソードを明かしており、非常に面白い。10代の頃の満島はオーディションですっかり落ち癖が付いており、『ウルトラマンマックス』に落ちたら、もう沖縄に帰るつもりだったそうだ。その直前に落ちたオーディションが『ニライカナイからの手紙』(05)。沖縄を舞台にした作品だが、福岡出身の蒼井優に負けてしまったのだ。また、金子監督の大ヒット作『デスノート』シリーズ(06)では、金子監督は弥海砂(あまね・みさ)に推すつもりで満島をオーディション会場に連れていったところ、戸田恵梨香も会場に来ており、あれよあれよという間に戸田恵梨香が海砂に選ばれてしまった。そのオーディションの帰り、満島は「私、駄目ですよね。あぁ、世界が変わってしまえばいい!」と呟いたという。怨念に満ちた演技がリアルなはずである。今、スクリーンの中で研ぎ澄まされた負のオーラを放つ満島ひかりだが、これからヒット作に恵まれ、多くの人の目に触れることで、陽性のオーラに転じていくに違いない。

 『川の底からこんにちは』で地味な仕事のイメージで描かれているシジミ工場、およびシジミ漁だが、近年はシジミに含まれるオルニチンは肝臓にいいということで大評判。シジミ漁はかなり賑わっているらしい。もとよりシジミ大好きな自分は、シジミの醤油漬けでビールを飲むのを楽しみとしている。そのうち、すっかり人気女優としてテレビに出ている満島ひかりを眺めながら、「昔はダメ女役で光ってたんだよなぁ」とビール片手にシジミを突つきながら独りごちることだろう。そのとき、自分は冒頭の”満島ひかりはシジミのような女だ”という言葉を訂正するはずだ。”満島ひかりは真珠貝のような女だ”と。
(文=長野辰次)

kawanosoko03.jpg
『川の底からこんにちは』
監督・脚本/石井裕也 出演/満島ひかり、遠藤雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松了ほか 配給/ユーロスペース+ぴあ 5月1日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中 <http://kawasoko.com>

愛のむきだし

すげーよ。

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最終更新:2012/04/08 23:01
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