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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.590

息子を強盗殺人へと駆り立てた実在の事件が題材 “鬼母”長澤まさみが恐ろしい『MOTHER マザー』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

 

女優として充実期にある長澤まさみの主演作『MOTHER マザー』。息子役はオーディションで選ばれた新人・奥平大兼。

 人気コミックの実写化映画『キングダム』(2019)ではダイナミックな殺陣に挑み、天才的詐欺師を演じたコメディドラマ『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)の新作劇場版の公開も控えるなど、女優・長澤まさみの活躍が目立つ。芸能生活20年を数える長澤は、新しいジャンルへの挑戦にも前向きだ。『新聞記者』『宮本から君へ』(19)などの問題作を次々と放つ映画会社「スターサンズ」の新作『MOTHER マザー』では、息子に強盗殺人を強要する“毒親”ならぬ“鬼母”を演じ、これまでに見せたことのない新しい闇の顔を披露している。

 本作のベースとなっているのは、2014年に起きた「川口市祖父母殺害事件」だ。事件当時17歳だった加害少年が小遣い欲しさに祖父母を襲った短絡的な犯行かと思われていたが、裁判が進むにつれ、この事件の異常さが明るみになった。少年の犯行は、少年の実の母親が示唆した可能性が高かった。裁判では母親が殺人まで示唆したことは認められず、母親は執行猶予、少年には実刑判決が下っている。

 我が子を強盗殺人へと追い込んだこの母親は、いったいどんな女性だったのか? 実際の事件を参考に、『ぼっちゃん』『さよなら渓谷』(13)で知られる大森立嗣監督は、母と息子との共依存ともいえる濃厚かつ、歪んだ家族関係を描き出している。

 シングルマザーの秋子(長澤まさみ)は、働く意思がまるでなく、お金があるとパチンコやゲーム、ホスト遊びで使い果たしていた。息子の周平(幼年期:郡司翔)はもっぱら、親族や知り合いからお金を無心するための集金道具扱いだった。別れた夫(大西信満)が息子の養育費を毎月送っても、あっという間になくなってしまう。ホストの川田(阿部サダヲ)と遊び回り、借金で首がまわらなくなると、別の街へと流れていく。

 そのため、周平は義務教育である小中学校にさえ通うことができなかった。どこにも居場所のない「居所不明児童」として、周平(少年期:奥平大兼)は育つことになる。

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