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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.594

上映時間8時間半のドキュメンタリー『死霊魂』中国共産党“飢餓収容所”サバイバーたちの証言

映画にはいろんなスタイルがあっていい

ゴビ砂漠にある再教育収容所の跡地周辺には、今も数多くの遺骨が残されたままとなっている。

 半世紀以上も昔のできごとだが、サバイバーたちにとっては決して忘れることができない体験だった。カメラに向かってしゃべっているうちに、次第に熱が入っていく。封印されていた記憶の扉が、いっきに開かれたかようだ。1日に配給された雑穀が250gから200gに減らされたこと、家族がこっそり差し入れてくれた麦こがしで空腹を凌いだこと、朝方になると隣で寝ていた人が冷たくなっていたこと……。収容所での記憶が鮮明に語られていく。また、ふいに口を閉ざした人の脳裏に去来したものは、何だったのだろうか。

「僕が生まれ育った時代も、決して豊かではなく、食糧事情もよくはありませんでした。でも、僕が生まれた農村は、みんなが貧しく、馬やロバを共有し、慎ましく暮らしていました。僕が中学生のときに父親が病気で亡くなり、僕が代わりに働くことになりましたが、10年ほど働いた後に大学や大学院に進むことができ、自分がやりたかった仕事に就くこともできました。僕はとてもラッキーな人生を送っています。でも、自分ひとりの力では、どうにもならないのが人生です。かつての中国は飢饉が襲い、今はウイルス感染によって世界は大変な状況になっています。個人の力ではどうにもならないことが、この世界にはいろんな形で存在するんです」

 上映時間8時間26分になる『死霊魂』だが、ワン・ビン監督は映画館で上映されやすいような短縮版をつくることはいっさい考えなかったという。

「上映時間を短くすれば、多くの人がこの映画を観てくれる、ということは考えませんでした。映画には、いろんなスタイルがあっていいと思うんです。2時間ほどでさっと観る映画があっていいと思うし、時間を要してじっくり撮った映画を好む人もいるはずです。この映画には8時間26分という長さが、どうしても必要だったんです」

 収容所で亡くなった人たちの遺骨の多くは、今も収容所のあった荒地に野ざらしとなったままだ。国家が繁栄する影には、ままならない生涯を送った人たちがいた。『死霊魂』はその無念さを供養するための映画ではないだろうか。映画という名の供養塔、それが『死霊魂』だ。

『死霊魂』

製作・監督・撮影/ワン・ビン

配給/ムヴィオラ 8月1日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

(c)LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINEMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

http://moviola.jp/deadsouls/

最終更新:2020/08/01 21:00
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