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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.600

“男らしさ女らしさ”という生き地獄からの解放! 原一男監督のドキュメンタリー砲『れいわ一揆』

ゾンビとは、社会の歯車になった大人たちの姿

安冨歩氏と「セラピーホース」のユーゴン。今までになかった楽しい選挙活動を行なうことが、安冨氏の狙いだ。

「れいわ新選組」の候補者たちは、個性派ぞろいだ。「死にたくなるような世の中はやめよう」と訴える山本太郎代表、重度障害者として参院選に初当選した「全身麻痺ギタリスト」舩後靖彦氏と障害者運動を進めてきた木村英子氏、沖縄創価学会壮年部員の野原善正氏(のちに離党)、元コンビニ店長の三井義文氏、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会元副代表の蓮池透氏、元派遣労働者のシングルマザー・渡辺照子氏……。公示が迫り、集まった観衆に各氏がそれぞれ熱く呼びかける様子を、カメラは記録する。

 そんな「れいわ新選組」の中でも、やはり安冨氏の存在と言動はひときわユニークだ。選挙期間中だけレンタルしてきた白馬ユーゴンを連れ、全国各地をチンドンパレードして歩き回る。行く先々の子どもたちは、間近に見る馬に興味津々。アコースティックな楽器を演奏する安冨氏一行とユーゴンの後を、子どもたちは面白そうに付いていく。その様子は現代のドン・キホーテかハーメルンの笛吹きのようだ。

 安冨氏はマイクを使って大声で叫んだり、白手袋で手を振るのは意味のないことだという。意味のないことは暴力であり、選挙も暴力になっている。暴力のない選挙にしたいのだと。また、政治に関心を持たないことは、現状の社会システムを全肯定する最大の政治信条になってしまうとも語る。選挙というメディアを使って、現状のシステムに異議を唱える人間がいることを少しでも知ってもらえればいい。票を集めて、当選することが目的ではない。「立場」にこだわらず、「型」にハマらない変わった存在がいることを、子どもたちが心のどこかに覚えておいてくれれば、安冨氏は今回の選挙に勝利したことになる。吉祥寺の緑あふれる井の頭公園で、安冨氏が自作の歌を歌い、ユーゴン目当てに集まってきた子どもたちがシャボン玉と戯れる光景は、束の間のユートピアを思わせる。

 東大教授である安冨氏の言葉は示唆に富んでいる。マイケル・ジャクソンの大ヒット曲に「スリラー」があるが、あの「スリラー」のプロモーションビデオに登場するゾンビたちはシステム化された社会の歯車のひとつになった大人たちの成れの果ての姿なのだそうだ。システムと個人がぶつかり合ったとき、システムを改良していくことで人類は進化してきた。それなのに、現代社会はシステムの中に個人を無理やり押し込めようとしている。そんな生き地獄から、これから大きくなる子どもたちを、そして自分の心の中にいる子どもを守らなくてはならない、と安冨氏は力説する。

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