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低迷する出版界に嵐を呼ぶトリックスター登場!大泉洋主演、吉田大八監督の快作『騙し絵の牙』

1960年代の出版業界を舞台にした『夢の砦』との対比

筒井康隆原作『文学賞殺人事件』(89)で新人作家を演じた佐藤浩市が大手出版社の新社長に。

 大泉洋は俳優なのか、それともバラエティタレントなのか。あれだけのキャリアがありながら、いまだに曖昧なままだ。日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)では誠実な企業マンを演じる一方、『NHK紅白歌合戦』では長時間の生放送を白組司会者として楽しげに仕切ってみせた。大泉のそんなつかみどころのなさを早々にうまく生かしたのが、内田けんじ監督の『アフタースクール』(08)だった。内田監督は大泉を『ルパン三世』的なイメージで捉え、二枚目でも三枚目でもなく、根っからの善人にも腹黒さを持つ男にも映るキャラを演じさせた。

 映画『騙し絵の牙』の速水も、『ルパン三世』的な資質を持ったトリッキーなキャラとなっている。『ルパン三世』的な資質の持ち主が、もしも出版業界に勤めていたら、どんな面白いことをやらかすだろうか。きっと誌面上の面白さを追求するだけでなく、現実世界とリンクさせた形で世間を「あっ」と驚かせるに違いない。人気作家や上司たちも巻き込み、出版界の『ルパン三世』はスリルを味わいながら暗躍してみせる。

 本来なら、映画『騙し絵の牙』は2020年の東京五輪直前に封切られる予定だった。コロナ禍で延期された東京五輪はいまだ宙ぶらりん状態のままだが、五輪開催前の出版界を舞台にした物語として思い出されるのは小林信彦の長編小説『夢の砦』(新潮社)だ。高度経済成長によって大きく変わりつつある1960年代の東京で、『夢の砦』の主人公・前野辰夫は廃刊寸前のミステリー誌を若者向けのカルチャー誌へとリニューアルし、時代の波に乗って、売り上げを伸ばしていく。新興するテレビ業界など他分野の才人たちも集め、雑誌を自分たち戦後世代にとっての理想の砦にしようと奮闘する。

 映画『騙し絵の牙』の速水は、これからの雑誌は才能ある人間たちが交わるHUBのような役割を果たしていければいいと考えている。砦を築こうとする前野、HUBを構築しようとする速水、1960年代と2020年代という時代の違いはあるが、考え方はよく似ている。社内で出世することよりも、面白い人たちと出会い、その才能をプロデュースすることに両者は喜びを感じている。新しい時代にあった、新しいカルチャーを生み出すことこそが編集者の生きがいである。

 映画の後半、速水と高野はふたりで社屋の屋上から、東京五輪を控え、再開発が進む都心の景観をしばし眺める。『夢の砦』の終盤、前野辰夫が若い女性編集者を連れ、東京の下町を散策する場面を彷彿させた。雑誌文化の黎明期を描いた『夢の砦』とその斜陽期を描いた『騙し絵の牙』がリンクする瞬間として、この屋上シーンは楽しめた。

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