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離婚ホラーマンガ”が爆誕!? コミックス版『ぼくたちの離婚』原作者と編集者が語る“離婚エンタメ”のススメ

離婚は“株の損切り”!早い決断が大事

――文章をコミックにしても、原作をしっかりと踏襲できている印象です。

稲田 そうなんです。僕が取材相手から聞いた話を一度文章にして、それをさらにマンガにするわけですから、必ず情報の劣化があるはず。なのに再現率が本当に高い! コミックスCase #01のラストにある、別れた妻がマンションのエントランスから追ってくるシーンなんて、僕が取材相手から聞いた時の迫力が完全に再現されていました。星野さんも漫画家の雨群(あめむら)さんも、取材相手には会っていません。にもかかわらず文章を巧みに翻訳する編集者の星野さんと、それを絵として具現化するマンガ家さんは、改めてすごいと感じました。

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取材対象者の経験が完全再現された迫真のシーン

――マンガを雨群さんに依頼した理由もお聞きしたいです。

星野 女性の絵がリアル路線でかわいく描ける方がいいなと思ったんです。それでいて、原作を読んだ人の中には「これはもうホラーだ」という感想もあったので、表情で人間の怖さを表現できる人ということで、雨群さんに依頼しました。雨群さんはホラー作品も描いている方なので、本当にぴったりなんですよ。コミックスCase #01やCase #02の女性がキレてる表情は鬼気迫るものがあり、雨群さんにお願いしてよかったと思いましたね。

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ホラーマンガ顔負けな描写も

――先ほど、作品の持ち味は“夫と妻で善悪をはっきり分けないこと”とおっしゃっていましたが、それをマンガでどのように表現していますか?

稲田 まず大前提として、僕は取材相手に肩入れしすぎないよう、いつも少し引いた目線でインタビューしています。取材相手が明らかにおかしなことや整合性の取れないことを言っていても、なるべくそのまま原稿にして、僕の感じた違和感も地の文で入れる。

星野 ただ、当初はインタビューパートをマンガには入れずに完全な夫婦の物語にしてしまうという選択肢もあったんです。

稲田 ただ、そうすると読者の居心地が悪くなってしまうんですよ。文字ベースの読み物なら、読者が「こいつの言っていること、おかしくないか?」と批判的に読むこともできるんですが、マンガにした場合、絵の説得力が強すぎてそれがしづらくなる。登場人物に共感できなくなれば、読み通せなくなるという問題が生まれます。

星野 ですから、マンガ版では稲田さんの「あなたの言ってること、ちょっと理解できません」みたいなリアクションを意図的に入れて、読者の感情を調整するようにしています。

稲田 とはいえ、僕が出てきたところで読者からは「誰こいつ?」って邪魔に思われるのではとも思いましたけど(笑)。

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原作の味を最大限に活かすため、原作者の稲田氏もマンガに登場する

星野 でも稲田さんのリアクションがないと、登場人物の言い分が全部正しいとは限らないという「ぼくたちの離婚」の本質が伝わらない。それは私の中でも徐々に明確になっていって、Case #01のインタビューパートは冒頭とラストのみだったんですが、回を重ねるごとに稲田さんの登場回数を増やし、物語の補助線的役割を与えています。

稲田 Case #04は唯一女性が取材相手で、これはマンガオリジナルのエピソード。この方は感じのいい人でお話も上手なんですけど、彼女の根本的な価値観の部分は最後まで1ミリも共感できませんでした(笑)。だからマンガでも僕が何度も登場してリアクションを取らないと、読者はどういう気持ちで読み進めていいかわからなくなってしまうんですよね。この女性に限らず、取材対象者は多かれ少なかれ常人では理解できない部分を持っています。だから不本意ながら僕が登場して、読者の感情を舵取りしていると(笑)。

全員バツイチのキャスト、スタッフでドラマ化希望!?

――今後、取材してみたい人はいますか?

稲田 今はホワイトカラーで比較的知的職業に就いている人に話を聞くことが多いので、それ以外の人たちへの取材も増やしていきたいですね。あとは、これまでは夫婦間のみのいざこさを主に取り上げてきましたが、最近では子どもが巻き込まれるケースも取り上げはじめています。たとえば親権獲得のための子どもの連れ去り、いわゆる「実子誘拐」ですね。これは社会問題になっています。多様な事例を取り上げることで、読者に離婚について考えるきっかけを与えられればと思います。

――離婚を前向きに捉えるエピソードもあります。

稲田 今、離婚はネガティブなイメージで伝えられがちですが、決して悪いことではありません。僕はよく、離婚を“株の損切り”に例えています。

――“損切り”ですか。

稲田 持っている株の値段が買い値より下がりはじめると、人間心理としては売り渋りたくなる。売った瞬間に損が確定するからです。でも、売り渋っているうちに損害はどんどん大きくなってしまう。だから正解は、上がる可能性がない株は即刻売って被害を最小にすることです。夫婦関係もそれと同じで、一度関係がうまくいかなくなれば、持ち直すことはめったにない。だったらとっとと離婚して、早めに第二の人生を歩み始めたほうがお互いのためなんです。

星野 転職と一緒ですよね。「御社とは相性が合わなかったので別の会社に」って切り出すなら絶対若いほうがいい。

――星野さんは今後マンガ版「ぼくたちの離婚」にどのような展開を期待しますか?

星野 やっぱりドラマ化してほしいっていうのはありますね。

稲田 ぜひ。ドラマが話題になれば、離婚は決して悪いことじゃないという捉え方も、たくさんの人に広められますし。

星野 キャスティングもスタッフも全員離婚経験者で固めて、“全員悪人”ならぬ、“全員バツイチ”にすれば、すごくキャッチーじゃないですか?

稲田 各局プロデューサーの方々、映像化の権利、まだ空いてますよ!(笑)

(インタビュー/武松佑季)

稲田豊史(編集者・ライター)

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編集者/ライター。キネマ旬報社を経てフリー。『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が大ヒット。他の著書に『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)などがある。

いなだとよし

武松佑季(ライター)

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1985年、神奈川県秦野市生まれ。雑誌ライター、編集者。東京ヤクルトファン。

たけまつゆうき

最終更新:2021/03/18 18:00
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