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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.637

映画プロデューサーと詐欺師は紙一重の違い? 豪華共演『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』

46年ごしで映画化された幻のB級映画

映画プロデューサーと詐欺師は紙一重の違い? 豪華共演『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』の画像2
6月で84歳を迎えるモーガン・フリーマン。笑いたいのを懸命に堪えている。

 マックスは殺人計画を周到に進める。脚本はボツ扱いになっていた『西部の老銃士』を採用。主演俳優は、かつて西部劇スターだったデューク(トミー・リー・ジョーンズ)。老人ホームで孤独に暮らしていたデュークを引っ張り出すことに成功し、やる気満々なスタッフも集め、映画の撮影(=殺人計画)の準備は万端だった。デュークは自殺願望を持っているので、「今回の計画は人助けだ」とうそぶくマックスだった。

 老人ホームではしょぼくれていた、忘れられたスター・デュークだったが、カウボーイの衣装に着替え、カメラの前に立つと異常なほどに元気になってしまう。映画の撮影現場は、キャストから計り知れないほどのアドレナリンを引き出してしまうのだ。

 マックスが仕掛けていた殺人トラップを、デュークは次々とクリアしてしまう。その様子をカメラは懸命に追っていく。事故死に見せかけて老俳優を殺すはずのフェイク映画が、まさかまさかの傑作映画になりそうな予感が漂い始める。保険金殺人のことを知らされていない甥っ子のウォルターは大喜び、マックスは複雑な心境だった。いつまでもデュークが死なないことに業を煮やしたレジーが、ロケ地を陣中見舞いすることに。リアルな殺気がみなぎるガンファイトの撮影シーンだった。

 主演の3人合わせて、234歳! 数々の名作で名演技を披露してきたハリウッドレジェンドの3人が共演を果たした、業界ものコメディである本作。ストーリーもキャラクター設定も非常にベタだが、B級映画ならではのライトな面白さがある。アカデミー賞には決してノミネートされることのない、こんなB級映画や誰も知らないようなC級映画が大量に作られていくことで、映画業界は成り立ってきた。そして、ボツになった企画や脚本、劇場公開されることのなかった幻の映画への、スタッフ&キャストからの愛情も本作からは感じられる。

 超豪華キャストを配して、B級映画である本作を撮り上げたのは、アクションコメディ映画『ミッドナイト・ラン』(88)で知られるジョージ・ギャロ監督。本作には原案となった元ネタ映画がある。ギャロ監督は学生時代に授業をサボって、コミックブックのコンベンションを覗いたところ、たまたま会場の一室で16ミリフィルムで撮られた未完成映画のラフカットが上映されていたそうだ。そのとき観た映画のタイトルが『THE COMEBACK TRAIL』。多額の保険金を掛けた主演俳優が危険なスタントで死のうとするというアイデアに、ギャロ監督は魅了された。このとき、ギャロ監督は18歳。本作の時代設定となった1974年のことだった。

 デニーロと組んだ『ミッドナイト・ラン』で成功を収めたギャロ監督は、映画監督になることを夢見ていた学生時代に観た幻のフィルム『THE COMEBACK TRAIL』を46年ごしで映画化したことになる。映画化の権利を手に入れるためにギャロ監督は『THE COMEBACK TRAIL』の製作者を探したが、ギャロ監督が見つけ出したときには製作者はすでに亡くなっており、未亡人からその許諾をもらっている。

 本作の原案となった『THE COMEBACK TRAIL』の製作者&監督は、ハリー・ハーウィッツ(別名ハリー・タンパ)といい、デヴィッド・キャラダイン、クリストファー・リーらが出演したカーアクション映画『爆笑!サファリ3000』(82)など日本では劇場未公開だったB級映画を数本残している。ギャロ監督が観たオリジナル版の『THE COMEBACK TRAIL』は、その後完成はしたものの、限定上映されただけで終わったようだ。豪華キャストでリメイクされた本作を、あの世でハリー・ハーウィッツは喜んでいるに違いない。それとも「俺が撮っていれば、オスカーも狙えたのに」とディスっているのだろうか。

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